「アルケゴス騒動」と市場への影響をどう見るか

みずほ証券のアナリスト・大橋英敏氏に聞く

アルケゴス・キャピタル・マネジメントの創設者ビル・フアン氏(写真:Bloomberg)
アルケゴス・キャピタル・マネジメントという運用会社が、担保の追加請求(追い証)に応じられず、取引銀行が担保株の強制売却に踏み切った。これにより、一部の国際的な金融機関に多額の損が出た。株式市場の動揺は一時的だったが、この事案や市場への影響をどうみるか、みずほ証券の大橋英敏チーフクレジットストラテジストに話を聞いた。

ファミリー・オフィスという抜け穴

――アルケゴス・キャピタル・マネジメントが破綻し影響が大手金融機関に広がっています。アルケゴスはあまり存在が知られていませんでしたが、資産が100億ドル(1兆円)を超え、レバレッジでポジションは一時500億ドル(5兆円)を超えていたとも報道されています。

アルケゴス・キャピタルはファミリー・オフィスで、個人の富裕層の運用をしている会社と理解しています。ヘッジファンドだと書いているメディアもありますが、おそらく定義上はヘッジファンドではありません。ヘッジファンドなら、SEC(米証券取引委員会)に登録する義務があり、保有資産、銀行との関係等を開示する必要があります。

一方、ファミリー・オフィスの場合は、このような報告義務はなく、当局のマクロ・プルーデンス政策(金融システム全体の安定性確保の政策)の抜け穴になっていた可能性はあります。一般的には、個人の取引が金融システムを揺るがす可能性は低いと考えられていたため、規制の対象になっていなかった。ところが、今の上昇相場の中で、レバレッジを効かせていたことで運用資産が巨額になっていた可能性はあります。

ただし、アルケゴスのレバレッジ比率が5倍とか6倍との報道もありますが、リーマンショック後の厳しい金融規制が効いており、デリバティブを駆使してもレバレッジを過度にかけることは難しいと理解しています。今回の件は例外的だとみています。ゆえに、足元の株式市場も比較的冷静な反応をしていると思います。

――​野村ホールディングスが約20億ドルの請求額があると開示した案件はアルケゴスだとされ、三菱UFJ証券ホールディングスの損害額2.7億ドルもそのようです。ゴールドマンサックスやモルガン・スタンレーも損失を被り、クレディ・スイスは30~40億ドルの損失と報道されています。

これまでに出ている情報を総合してみると、モルガン・スタンレー、クレディ・スイス、ゴールドマンサックス、野村ホールディングス、ドイツ銀行あたりの取引量が大きかったのでしょう。そもそも、アルケゴスの運用者であるビル・フアンという人はヘッジファンドのタイガー・アジア・マネジメントで運用をしていたときに、インサイダー取引の問題を起こしていました。ですから、証券会社はそれなりに警戒して審査はしていたと思います。

アルケゴスが特定の銘柄に大きくポジションを張っていて、その下落によって大きな損失が出ることになれば、金融機関としてはリスク管理上の対応を迫られます。一部の証券会社は、流動性のある上場株を担保に取っており、担保株式の価格の下落が小さい局面でポジションを解消したのなら、損失が小さくて済んだ可能性もあります。

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