「アルケゴス騒動」と市場への影響をどう見るか みずほ証券のアナリスト・大橋英敏氏に聞く

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大橋 英敏(おおはし・ひでとし)/みずほ証券シニアエグゼクティブ兼金融市場調査部チーフクレジットストラテジスト。2015年12月よりみずほ証券。同志社大学卒業後、1991~2000年日本生命保険で運用に携わる。2000年からモルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)、2012年よりジャパン・クレジット・アドバイザリー株式会社を創業。長年、クレジット市場分析を担当。1997年大阪大学大学院で修士号取得(経済学)。『クレジット投資のすべて』等著書多数(写真:みずほ証券提供)

取引金融機関がどの程度の損失を計上するかは、基本的には、レバレッジを何倍かけていたか、債権の総額はいくらか、担保に流動性のある資産を取っていたか、現時点でその担保の評価がどうか、などに左右されると言えます。流動性のない資産の場合は、価格変動を考えれば、今無理に売って換金したほうがいいのか、そうでないのかの判断もあります。

ただし、取引金融機関で実際の損失が発生しない会社はないのではないかとみています。一方、損失規模が純利益額に対して大きくなければ、適時開示対象にもならない可能性もあります。

例えば、ゴールドマンは純益が45億ドル(約5000億円)あるので、仮に損失が4~5億ドルあっても影響は大きくありません。モルガン・スタンレーは最終利益が33億ドル(約3400億円)ありますが、損失規模が純利益の水準に対して大きくないか、損失額が確定できないので、発表していない可能性もあります。野村HDは前2020年3月期の利益が2169億円ですから、単年度の収益には影響が大きいですが、格付け機関のS&Pがコメントしているように、市場参加者は財務状態や信用力への影響は軽微とみていると思います。

強気の流動性相場の中で影響は小さく

――こういうことが起きると、心配なのはシステミックリスクです。売りが売りを呼ぶ、金融機関による損切りが連鎖するという展開にならないか。リーマンショック以降に金融機関のリスクの取り方にはかなりの締め付けが入りましたので、その不安はあまりないのでしょうか。一方で、その結果として、ヘッジファンドや年金などのノンバンクにリスクが貯まっていることが指摘されてきました。

大きな金融機関が破綻するようなリスクは、リーマンショック後の規制強化でほとんどないとみてよいと思います。特定の企業への融資で損失を被っても、そのリスクがバランスシート全体に占める割合は抑えられていますので、金融機関の与信によってリーマンショックのような信用危機に発展することも防いでいます。

ですが、投資家の売りが売りを呼んで市場全体が大きな下げに見舞われるのかそうでないのかは、相場の地合い次第です。非常に相場全体が不安定であったなら、多くの投資家がポジション調整に動くと相場が大きく下がる可能性は当然あります。ですが、今はコロナ禍の中の金融緩和と景気回復期待で相場全体が強気ですから、影響が大きく出ませんでした。

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