アメリカ経済に表れ始めた「ほころび」の深刻度 ピクテの市川眞一氏に超大国の進路を聞く
「雇用なき回復」で今年後半は減速へ
――アメリカ経済の現状をどう見ていますか。
新型コロナ禍で景気が急悪化し、金融システム不安も高まった昨年春からここまで目覚ましい回復を遂げた。回復を誘導したのが財政・金融政策。3月の小売売上高が前月比9.8%増となるなど、バイデン政権による給付金を含む1.9兆ドルの追加経済対策もあり、消費が盛り上がりを見せている。
ただ、今年後半には景気は減速すると見ている。理由は2つある。
1つは構造的な理由だ。失業率は昨年4月の14.8%から今年3月の6.0%まで改善したが、職に戻ったのは「一時解雇(レイオフ)」されていた人が大半を占める。一方で「永久解雇」となった人は昨年4月より今のほうが多い。コロナ禍で社会のリモート化が進み、小売業界の破綻が相次ぐなど、人が関わる仕事が減っているためだ。
新たな職を探すための移行期間は2年くらいと見られ、その間はクリントン政権第1期のような「ジョブレス・リカバリー(雇用なき回復)」の様相が強まりそうだ。企業業績は改善するが、マクロ的な景気回復は減速する可能性がある。
もう1つは財政面の理由だ。バイデン政権はバラマキともいえる財政のカンフル剤を打っている。背景には、トランプ氏を支持していた中低所得層の白人の支持を増やし、同氏の復権を阻む狙いがある。だが、いつまでも大盤振る舞いは続けられず、いつかは「財政の崖」が起こる。物価も上昇しており、財政支出は難しくなっていく。
イエレン財務長官は法人税の国際的な最低税率導入を訴えているが、これは国内で格差是正に向けた増税を行うための環境整備でもある。富裕層や企業への増税を財源に2兆ドル規模の経済対策(インフラ投資計画)を発表しているが、8年間にわたる長期的な対策だ。こうした財政の変化が年後半以降の景気に影響しそうだ。
とはいえ、リセッション(景気後退)に陥るような状況ではない。実質GDP(国内総生産)成長率は年後半に年率4~5%程度に減速し、2021年通年で6~7%程度だろう。
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