誤ったESGの議論は格差を拡大し成長を損なう

日本企業に株主主権の強化を求めたのは間違い

2019年8月に、アメリカの代表的な企業のCEOで組織するビジネスランドテーブルは、企業の目的として顧客、従業員、取引先、地域社会など株主以外のステークホルダーにも貢献していくことを宣言した。写真は当時会長を務めたJ.P.モルガン・チェースCEOのジェイミー・ダイモン氏(写真:Bloomberg)

ESG経営あるいはESG投資といった議論が盛んになってきた。Eは環境、Sは社会、そしてGは企業統治だが資本主義下では株主ガバナンスといってよい。これらの観点を経営管理あるいは投資の軸に据えることで、企業は発展し、環境や社会全体、ほかのステークホルダー(顧客、従業員、取引先など)などにもよい影響を与えるはずとする議論である。

しかし、この議論、そもそも筋がおかしくないだろうか。EとSは多くの人が賛同する「目標」だが、Gは目標達成のための「手段」にすぎない。そのGをEやSと同格の目標であるかのように扱うのは、議論のすり替えでありただの政治的アジテーションではないか。浅い考えでGの強化を叫ぶことは、EやSをよくするどころか、かえって損なう要因になりかねない。

株主ガバナンス強化論はなぜ間違いなのか

そのことを、今や経済学の基本定理といえる「コースの定理」の考え方を用いて整理しよう。図にするとわかりやすいので次ページに掲載した。

横軸に企業の新しい可能性に対するチャレンジ度をとり、縦軸に企業のステークホルダーである株主と従業員に生じる変化に対する限界的な(単位当たりの)利益と損失をとることにする。

企業経営のチャレンジ度が上がることで株主に生じる限界的な利益を図示すると、それは一般的には右下がりの軌跡となる。なぜなら、企業が新たな機会に挑戦して得られる追加的なリターンは最初のうちこそ大きいが、その程度を上げていくうちに、持てる経営資源の限界に制約され徐々に低下するはずだからだ。

一方、チャレンジ度の増加が従業員にもたらす単位当たりの損失は右上がりの直線である。企業が新しいことに挑戦すると、従業員たちが蓄えていた業務に関する知識や経験は、新しい状況に応じて改めて作り直されなければならない。また、企業がチャレンジ度を上げるにしたがって倒産可能性も増加する。株主は分散投資によって倒産による損失をコントロールできるのに対し、従業員にはそれができないからだ。

この図を見ていくと、2014年に経済産業省の研究会の成果として公表された『伊藤レポート』に代表される、株主ガバナンス強化論の大きな問題点が明らかになる。

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