アメリカ経済に表れ始めた「ほころび」の深刻度 ピクテの市川眞一氏に超大国の進路を聞く
――3月下旬のアルケゴス破綻で一部の投資銀行が大損失を負いましたが、どう捉えますか。
何かを象徴している可能性はある。2007年8月にBNPパリバ系の3つのファンドが閉鎖(解約凍結)された当時、16億ユーロ程度の規模だったこともあり、私を含めて市場関係者の多くがそれほど大きな問題に発展するとは思わなかった。結局、あれがリーマンショックへの入り口だった。
確かに今は、流動性が大幅に拡大された中で大きなレバレッジ(借金によるテコの原理)がかかった状況にある。何らかのきっかけで逆転すると、バブル崩壊的なリスクはある。リーマンショック時と比べて各銀行の経営や金融システムは厳しくモニタリングされており、バブル崩壊の可能性が非常に高いとは思えないが、こうしたことが起こるということは、どこかに「ほころび」があるということであり、注意を要する。
クレディ・スイスがリスク管理のトップを事実上更迭するなど、今後は投資銀行の間でリスク管理が厳格化され、レバレッジ拡大が難しくなる可能性がある。金融規制も強化されそうだ。もともとバイデン氏はトランプ政権が金融規制を緩めたことに批判的だった。
――アルケゴスのようなファミリーオフィス(個人やその一族の資産を運用するファンド)は市場で注目されていましたか。
一般にはあまり知られていないが、投資銀行の世界ではレバレッジをかけてくれる重要な顧客だった。(通常のヘッジファンドと比べて)規制がかかりにくいことで注目はされていた。だが今後は投資銀行の取引見直しが強化される可能性があり、市場の流動性にも影響が出てくる。健全な調整であれば、バイデン政権としてもウエルカムだろう。
株価指数のベストシーズンは終わった
――アメリカの株式市場には水準的に買われすぎも指摘されます。
金利がゼロの世界では、株価収益率(PER)だけを見て割高、割安とは言えない。短期金利も長期金利もゼロという状況であれば、今の株価は正当化されるだろう。
しかし現在、長期金利が1.6%前後まで上がってきており、だんだん割高感が強まるゾーンに入っている。つまり、インデックス(株価指数)に関してはすでにベストシーズンは終わったと思う。NYダウは3万4000㌦台に乗せたが、上昇の勢いは弱ってきている。今後しばらくは横ばいのボックス圏の動きが続くのではないか。
今後は指数の上昇に期待するより、個別の株の中身をしっかり見ていく時期になる。1つは業績であり、もう1つはテーマ性だ。例えば、コロナ禍でIT、リモート化の関連株が買われたが、かなり一巡してきた。一方、地球温暖化の抑止は非常にチャレンジングな課題であり、幅広い要素を持った息の長いテーマといえる。
――環境関連株もかなり人気化しました。
ここ1~2年の市場はすぐ目に見えるもの、すぐに思い浮かぶ銘柄を攻めていたが、これからはもっと奥のほうに入っていくことになるだろう。
――山の奥に宝があると。
そう思う。電源にしても通常の再生可能エネルギーや水素だけではなく、アンモニアやSMR(小型モジュール炉)なども注目度が高まるだろう。銘柄の発掘はまだ始まったばかりではないか。
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