アメリカの一国主義はトランプ政権時代に加速しましたが、トランプは起点ではなく、グローバルな介入主義に消極的になったオバマ時代からの12年間が、今日の構造変動の1つの契機となっているのだと思います。
さらに、今日の日米機軸をもっと長い歴史的なスパンで位置づけると、それは第二次世界大戦中の1941年8月に発表された大西洋憲章の思想を引き継いだ、その新しい姿なのだと考えます。言うまでもなく、大西洋憲章はルーズベルトとチャーチルによる首脳会談後に発表された声明で、価値を共有する米英が基軸となって目指すべき、大戦終結後の世界秩序の原則を示したものでした。
今日、私たちが見ているのは、今や大西洋ではなくインド太平洋を舞台に、価値を共有する日米が国際秩序の中心となって、安定と繁栄を目指そうとする姿です。
1941年はいみじくも日米開戦の年ですが、太平洋を舞台に激しく戦った両国が、80年後の今、インド太平洋における民主主義や人権、法の支配といった価値を確立していこうとしている。今回の日米首脳会談は、そのような意味で、大西洋憲章に並ぶとまでは言いませんが、重要な意味を持つ会談になるのだと思います。
さらに言えば、1942年1月に公表された連合国宣言は、米英にソ連と中華民国を加えた4カ国が中心となって起草しています。4カ国が共有していた価値はファシズムとの対決にすぎず、ソ連や中国は十分に民主的な国家とは言えませんでした。しかし、今日、インド太平洋の安定と繁栄を目指して結集したクワッドの4カ国、すなわち日米印豪はいずれも民主主義の価値を共有しています。それは、民主主義を拡張するという意味で、非常に重要なポイントです。
経済重視から価値観重視への転換
国際秩序の変動の歴史でもう1つ見逃すことができないのは、1971年のニクソン訪中が端を開いた米中国交正常化です。今日、ニクソン・ショックと呼ばれている歴史的出来事です。このとき、アメリカは共産主義勢力の中華人民共和国を、事実上、中国の政府と認めました。つまり、ニクソンとキッシンジャーという2人の現実主義者は、自由と民主主義の価値を共有することの重要性を大きく後退させ、経済を重視して価値観の異なる中国と提携することを戦略的に決断しました。
こうした歴史的経緯を踏まえ、例えば、楊潔篪国務委員や王毅外交部長は経済的、戦略的利益を前提とした米中の協力を呼びかけましたが、アメリカはそれとは距離を置いています。つまり、米中国交正常化から約50年を経て、アメリカは価値を共有する同盟国との関係を優先し、民主主義勢力と専制主義勢力の対立というイデオロギー的な構図で、世界秩序を捉えるという姿勢に逆戻りしたと言えます。
2021年は後に振り返ったとき、アメリカがニクソン・ショック以降に踏襲してきた米中関係の安定的戦略的な管理の時代から、日米を中心とした同盟国との提携を優先する時代に転換した年として記憶されることになるのだと思います。
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