ところが、今回の日米首脳会談では、価値を共有する日米両国が、「自由で開かれたインド太平洋」をともに構築していくことが確認されるはずです。つまり、この地域での、米中機軸から日米機軸への転換が確認される。それが大きな変化であり、歴史的意義だと私は考えます。
この変化をさらに長いスパンで捉え直すと、1つには1989年の冷戦終結後の世界で、誰もが疑わなかった民主主義拡張の潮流が大きく変わりつつあると言えます。
この年に、フランシス・フクヤマが有名な「歴史の終わり」という論文を書いています。その中でフクヤマは、共産主義のイデオロギーが敗北したことにより、自由民主主義が世界中に拡張していくという、非常に楽観的な青写真を示しました。つまり、イデオロギー的にはアメリカの価値観に対抗する勢力が、歴史的に消滅したことを想定したのです。
ところが今日の世界では、アメリカ大統領であるバイデンが、「民主主義勢力と専制主義勢力の対立の構図」を国際秩序の基本と捉えています。それを「冷戦」と呼ぶか否かは別の議論となりますが、少なくとも、アメリカの現職大統領が世界の秩序を米中対立の構図で捉えているという事実は、重要な意味を持ちます。つまり、1989年当時の、自由民主主義が中国を含めた世界に浸透していくという楽観論は消滅したということです。
介入の時代から不介入の時代へ
2つ目は国際紛争への人道主義的な介入の挫折です。1999年にコソボ紛争が起こったとき、アメリカをはじめとする西側諸国は、人道的な危機に対して躊躇なく軍事介入しました。このとき、紛争が多くの市民の人権を侵害する局面においては、軍事介入することをスタンダードな対応とする、人道主義に基づいた介入主義の時代が始まったわけです。
ところが、その後、アフガニスタン戦争とイラク戦争の失敗で、アメリカが力の限界に直面し、状況は大きく変化しました。介入の時代から不介入の時代への転換です。
不介入に舵をきったのはオバマ政権でした。コソボ紛争から10年後に成立したオバマ政権は、世界の警察官としてアメリカが世界の問題に介入する時代ではなくなったことを、間接的に告げたのだと思います。オバマ大統領は、シリア政府が化学兵器などの大量破壊兵器を用いることが、アメリカの軍事介入の「レッドライン」であるように述べながら、後にそのような発言があったことを自ら否定して、大きく揺れ動きました。この転換が、船橋理事長が指摘されたアメリカ衰退論のきっかけとなったのだと考えます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら