アメリカ衰退論と中国覇権主義
細谷 雄一(以下、細谷):2013年2月に、第2次安倍政権発足後最初の日米首脳会談が開催されてから8年あまりが経過し、米中関係、日米関係は大きく変化しました。
2013年当時は、安倍首相(肩書はいずれも当時)の歴史修正主義がアジアの平和を壊すという批判があった一方で、オバマ政権下で米中関係は比較的安定していました。が、トランプ政権の誕生で米中関係における緊張が高まり、米中は対立を深めていきました。とりわけ、昨年5月、アメリカのポッティンジャー大統領副補佐官の演説(5月4日、バージニア大学で開催されたシンポジウムにオンラインで参加し、中国語で演説。習近平体制の言論弾圧を厳しく批判した)を振り出しに、この1年で米中はさらに対立を激化させています。
地経学の構造変動という観点から、こうした変化をどのように捉えることができるのか。変化の意味と本質はどこにあるのでしょうか。
船橋 洋一(以下、船橋):8年前と今の日米関係には大きな変化が見られます。安倍首相に対する厳しい評価もあって、2013年当時、オバマ政権は日本に対して非常に冷ややかでした。それと比較すると今の日米関係はとても良好です。
バイデン政権の日本への期待は大きく、例えば、就任前に日米安保第5条を尖閣諸島に適用すると明言したり、先日オンラインで開催されたクワッドで「自由で開かれたインド太平洋の構想」を支持したりということがありました。バイデン政権の日本への接近ぶりは顕著です。そのような状況で、4月16日からの日米首脳会談は、成功が約束されているような中で開催されました。
つまり、この8年の間で、アメリカ側からみた日本の戦略的価値が、期待も含めて非常に高まったということです。
その理由は、米中関係が質的に大きく変化したことにあります。変化の1つは、アメリカ衰退論を信じているかに見える中国の「アメリカ何するものぞ」といった態度と振る舞いです。アメリカを中心とする国際秩序が崩壊過程にあると中国は捉えている。そのようにアメリカはみなしている。そうした変化が、アメリカの対中戦略転換を促し、日本の戦略的価値を高めたと見ることができます。
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