日本の対米・対中戦略に一体何が求められるか どちらつかずの宙吊り状態は避けねばならない

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日米中をめぐる構造変動を踏まえた日本の課題とは?(写真:Rodrigo Reyes Marin/Zuma Press、Aris Messinis/AFP 、Andrew Harrer/Bloomberg)
API(アジア・パシフィック・イニシアティブ)による「API地経学ブリーフィング」の連載「ポストコロナのメガ地経学」を開始して1年になりました。
連載1周年として開催した、API理事長の船橋洋一氏、API地経学ブリーフィング編集長でAPI研究主幹の細谷雄一・慶應義塾大学法学部教授、API-MSFエグゼクティブ・ディレクターの神保謙・慶應義塾大学総合政策学部教授の3氏による鼎談。2021年4月20日配信の「分断する世界で日本に求められる役割とは何か」に続く第2回をお届けします。

尖閣と台湾

細谷 雄一(以下、細谷):前回は「地経学の構造変動」をテーマに、おもに2013年以降の米中、日米関係の変化とその背景を見渡しました。今回は、そうした構造変動を踏まえた、現在における日本の課題を話し合いたいと思います。

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神保 謙(以下、神保):日米同盟には対中戦略を念頭とした安全保障と経済の両面に課題があります。まず軍事面ですが、米中の軍事競争はこの30年間にわたり継続していて、そこには連続性があると私は考えています。そのような連続性の中で、バイデン政権は現在、暫定的な国家安全保障戦略の指針を策定し、国防省は対中政策を見直しています。さらに、年内にはアメリカ軍のグローバルな態勢の見直しについても結論を見るはずです。その過程で行われる同盟国との調整が日本にとっての課題です。

アメリカの軍事政策の基本的な方向性は、戦略的競争を追求していくことですが、前回指摘したとおり、中国と対峙するアメリカ軍の優位性が、質量ともに自明ではなくなっているのが現状です。アメリカの軍事戦略の見直しの中では、先端技術の応用、高度な統合作戦を通じた「新しい戦い方」が模索され、その中で同盟関係の強化が重要視されると思います。

日本と深く関連する具体的な問題には、尖閣諸島の防衛強化と台湾海峡の現状維持があります。尖閣諸島の防衛強化は安全保障政策の概念の変革を迫る重要な課題です。海上保安庁の法執行活動の能力を超えた挑発行動に対し、自衛隊の能力を組み込み、さらには日米同盟の役割を組み合わせて、段階的な抑止態勢を構築する必要があります。バイデン政権が日米安保条約第5条を尖閣諸島に適用することを明示し続けることとともに、武力攻撃未満の挑発行動に対して日本自身の対応能力を抜本的に強化する必要があります。

台湾海峡の現状維持も日米同盟の重要課題です。本年4月の日米首脳会談の首脳共同声明では「台湾海峡の平和と安定」の重要性が言及されました。台湾情勢の変動リスクへの強い警戒が背景にあります。しかし台湾海峡の軍事バランスは中国が圧倒し、アメリカ軍に対する介入阻止能力も伸長する中で、台湾海峡の現状維持を保つことはかなりのエネルギーを必要とします。中国の力による現状変更への誘因を阻止するためにも、日米同盟が台湾有事を念頭に置いた軍事態勢と作戦計画を推進することは不可欠です。

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