地経学を考えるうえでは、日米首脳会談でも取り上げられた経済領域に着目する必要があります。第1にサプライチェーンの整備です。バイデン政権は、現在、約3カ月をメドに半導体と大容量電池、レアアース、医薬品の4分野のサプライチェーンの見直し作業を行っています。さらに、1年以内には、より広範な領域のサプライチェーンを見直すはずで、防衛、情報通信、エネルギー分野などに及ぶことが予想されます。
第2は先端技術に関する日米協力です。日米首脳会談では5Gと次世代移動体通信網、デジタル経済、バイオテクノロジー、人工知能(AI)、量子化学、民生宇宙分野の研究などで連携を深めることが確認されました。とくに5G整備やデジタル分野の競争力のために、アメリカが25億ドル、日本が20億ドルという具体的なコミットをしたことが特徴的です。
第3の焦点は従来の日米による第3国でのインフラ開発支援という枠組みに「脱炭素社会への移行」という価値が強調されたことです。これはバイデン政権特有の磁力で推進されたと考えられますが、気候変動に配慮したインフラ開発や能力構築などが戦略連携のアジェンダとなりました。
地経学の観点からは、戦略目標と経済的手段の融合を読み取ることができます。ただ懸念すべきは、サプライチェーン見直しや技術の囲い込みによって、産業競争力を強化できるかという視点です。中国に対する輸出管理と投資規制はそのままにすれば輸入代替的な保護政策となります。積極的な産業振興とセットで推進しないと、技術・価格競争力で勝ち残ることはできません。
また日米連携という視点から考えても、日本とアメリカの産業界には対中依存とサプライチェーンの概念が異なります。日本企業の中国での事業展開は1万4000社あり、多くの企業が高い収益を上げています。また日本の世界全体の投資収益率に占める中国の割合は16.7%と圧倒的で、日本にとって中国の経済的価値は極めて大きいのです。
日米の政策協調も未熟
経済安全保障分野の日米の政策協調も未熟です。アメリカの貿易管理や先端技術管理、投資管理などや、政府調達規制の流れが、同盟協力というかたちで必ずしも位置づけられていないことも問題です。例えばアメリカ商務省が貿易取引を禁止する「エンティティリスト」への登録は、同盟国への相談はなく一方的に決定しています。その結果、特定の中国企業が登録されてしまうと、再輸出規制などの域外適用によって日本企業も取引ができなくなり、大きな影響を被ります。
バイデン政権が同盟国を重視し、自由主義諸国同士での連携を深めていくのであれば、貿易管理などを同盟関係の中に明確に位置づけ、一方的な通告ではなく、関係諸国の意見を積み上げるような仕組みを作るべきだと思います。
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