問われているのは、日本のより主体的な戦略です。日本の対中戦略を、どのようなかたちでアメリカに提示していくのか。提示するにとどまらず、アメリカ政府を説得して同意を得られるか否かが重要です。換言すれば、その地政学的な違いや、貿易構造や戦略文化の違いからも、アメリカと日本の対中戦略に差異が生じるのは当然で、その違いを相互補完的なものとして調整する姿勢が問われています。それには、従来型の手法とは別の努力が必要です。
軍事に関しては、神保さんからご指摘があった台湾有事など想定される大きな危機が到来したときに、日本が実際に迅速かつ的確に対応できるかどうかが課題です。あるいは、有事を起こさないように、日本が十分な抑止力を提示できるかどうかが問われています。
その際に、軍事費の負担の問題を避けては通れません。安倍政権下で新しい安保法制が成立し、従来の「基盤的防衛力構想」が「動的防衛力」、さらには「統合機動防衛力」に代わり、また集団的自衛権の部分的行使が可能とされるようになり、有事にはアメリカと共同で対処することになります。
そのような現在において、アメリカがGDPの3%超、韓国が約2.5%の防衛費支出というときに、GDP1.0%という日本の防衛費がアメリカから見て十分な自助努力をしているように評価されうるのかどうか、疑問です。従来のような、基地の提供で十分な貢献しているという受け身のロジックは通用しなくなると思われます。
台湾有事が現実となった場合に、日本のこれまでの安全保障政策の進化が問われるのだと思います。なぜなら、日本から見て遠方でのイラク戦争やウクライナ紛争とは違い、日本の領土と隣接した台湾海峡の問題は、アメリカより日本のほうがより深刻な安全保障上の影響を受けることになり、日本が重要な役割を担うことが不可避だからです。つまり、日本に差し迫った危機に対して、アメリカに協力するかどうかということではなく、日本が主体的にアメリカと提携し、同盟をより実効的に運用できるかどうかが問われることになるのです。
「一帯一路」をめぐる亀裂
経済の側面では、日米、あるいは民主主義勢力が、中国が強力に推し進めている「一帯一路」に対抗できるような経済協力や支援の枠組みを構築できるかどうかが課題です。とりわけ、コロナ後にはこのことが重要課題となります。
「一帯一路」は、中国がインフラ整備等のパトロンとなって欧州に至るユーラシア大陸の広域経済圏を建設しようとする構想で、これにより中国と欧州の間に位置する地域での影響力は強くなっています。ところがトランプ政権はこれに対抗するロジックを持たず、アメリカの「力の真空」のみならず「ビジョンの真空」が生じてしまいました。バイデン政権は明らかに、そのような「ビジョンの真空」を埋めようとしています。
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