ところが現実は、ワクチン外交一つを見ても、中国が自国製のワクチンを積極的に他国に供与しているのに対し、民主主義諸国は自国優先で稀少なワクチンを奪い合っています。「一帯一路」にワクチン外交を結びつけることで、コロナ後の世界で中国の影響力がさらに浸透することは明らかです。
それに対し、強い危機感を抱くバイデン政権が日本との同盟を重視しているわけですが、ここで同盟にとって棘となるのが、前回、神保先生が指摘されたアメリカの国家資本主義への傾倒です。
トランプ政権はいわゆるデカップリングの必要を説いて中国を牽制しながら、実際には米中の貿易額は増大しています。他方で、経済対策に200兆円を投下することを決定したことからもわかるように、バイデン政権は「小さな政府」のイデオロギーを捨て、政府主導でコロナ危機を乗り越えようとしています。つまり、200兆円の景気刺激策は、リーマンショック後の中国が戦略的意図を持って大規模な財政出動を行ったのと同様に、ニュートラルな資金投入ではなく、なんらかの政治的意図や戦略的意図を持って投入される余地があるということです。それは、アメリカの“中国化”を意味します。
この200兆円が、そうした政治的戦略的意図、それが「一帯一路に対抗する」という意図であることは想像にかたくありませんが、一定の意図を持った経済対策であることを考えたとき、日本は難しい立場に立たされます。
安倍政権下で、日本は2017年6月以降、一定の条件下での「一帯一路」への支持を表明しています。これはアメリカとの立場の差異の顕著な例となります。「一帯一路」の枠組みをこれまでどおりに促進して日中経済協力を強化していくのか、それとも、その枠組みから離れて自由民主主義諸国間の協力に比重を置くのか。「一帯一路」の支持を継続するのであれば、日中の経済協力の意義や必要性、重要性を、アメリカに論理的に説明し、理解を得なければなりませんが、それができるのか。難しい課題です。
冒頭の発言の繰り返しになりますが、アメリカとは異なる対中戦略を選択する場合、それが合理的であることをアメリカに説得するための論理を持ちうるかどうかが課題です。少なくとも、対中戦略をめぐって日米間に亀裂や不信感が生まれることがあってはなりません。
米中間を漂流しないために
人権外交もまったく同じです。中国との経済的結びつきや法的基盤の違いを理由に、中国国内の人権弾圧への非難や制裁に消極的な姿勢を示すのであれば、日本のアプローチの論理を国際社会で合理的に説得する戦略が必要です。
日米同盟を深化させるうえで、その目的を共有していれば、具体的な政策のアプローチが完全に同一のものでなくとも問題はないはずです。ただし軍事や経済、人権の領域で、日米のアプローチの違いが生じた場合、政策の差異について簡単に自らアプローチを放棄するのではなく、それをアメリカに対して合理的に説明して理解が得られるような強靱な論理を持つ、真摯な努力が求められると思います。
それができなければ、日本はアメリカと中国との間で漂流してしまい、どちらつかずの宙吊りの状態になってしまうということになります。そのような日米の離間こそが、中国政府が求めている戦略なのです。
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