同盟関係の深化にあたっては、人権外交も課題となります。ロシア、中国、ミャンマーなど、人権が懸念される国々に対して、バイデン政権は極めて厳しい政策をとることが予想され、日本が立場表明を迫られる局面は増えてくるはずです。法の支配に基づく自由な経済活動を基盤とする自由で開かれたインド太平洋構想を展開する日本としては、人権問題には、強い関心を持たざるをえません。
ただ人権外交の具体的な実行方法について日米ですべて一致させる必要はありません。日本の人権外交には歴史の蓄積があり、かつて宮本雄二・元中国大使が語った通り、「価値観の表明は明確に、しかし実際の行動は慎重に」というのが、その基本的スタンスです。つまり、人権侵害を厳しく批判をするというのは当然だが、人権外交は対象国をやみくもに孤立させるのではなく、出口戦略を考えて展開すべきだというのが、日本の一貫した立場であると思います。
具体的には、対象国に対して提供してきたODAや技術支援などの経済支援を取引材料として、粘り強く人権侵害の是正を求め民主化移行を促すというアプローチに意義を置くべきと思います。もっとも欧米諸国の制裁と孤立化政策の中での役割分担とも言えるので、丁寧な日米・日欧の政策協調は不可欠です。
脱中国といっても容易ではない
船橋 洋一(以下、船橋):経済に関する課題では、私も神保さんと同じ問題意識を持っています。尖閣諸島の問題を抱えながらも、日本のビジネスの中国への依存度は、この8年間で非常に高まりました。日本企業は中国市場の恩恵にあずかっています。そのため、脱中国といっても容易ではなく、日米間のすり合わせの重要性は増しています。
そもそも、同盟国とはいっても、1970年代から90年代半ばまで、日米両国は熾烈な経済摩擦を繰り返しました。冷戦が終わったとき、「冷戦が終わった。ソ連が負けて、日本が勝った」などと言われたりもしましたが、それほど経済・貿易面での日本へのライバル感情は強かった。冷戦下の同盟国であっても経済の調整は極めて難しい課題だったことを想起する必要があります。
日米首脳会談では、同盟としても中国からの地経学的挑戦によりよく対応することをうたいました。これは必要なことですが、経済安全保障政策での提携強化については、日米双方とも政府と私企業の連携が不可欠であり、日米ともに私企業には私企業の論理と利害関心もありますから、2+2の防衛・安全保障の協力とは異なった難しさがあることを認識しておくべきです。
日本の国家安全保障局(NSS)とアメリカの国家安全保障会議(NSC)のより深い政策連携が求められます。日本のNSSは昨年4月に経済班を設置しましたが、いまだに政府全体の経済安全保障戦略の司令塔にはなっていません。経済安全保障政策は経済班ではなくNSS全体が最重要課題として総力を挙げて取り組む必要があります。
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