世界秩序の変動はコロナ以前からすでに非常に深刻でしたが、それは主に3つの変動で構成されています。
1つはグローバルなパワーバランスの変化、2つ目は自由主義経済から国家資本主義への転換、そして3つ目が、世界的な民主主義の後退です。非効率は民主主義の宿命ですが、ガバナンスモデルとしての民主主義の非効率を問題視する人々が増加し、この15年間にわたって世界的に民主主義の後退現象が続いています。
そのような秩序の変動の中で、船橋理事長が指摘されたアメリカ衰退論のような議論が出てきているのだと思います。安全保障の領域では、アメリカが単独で中国に対する通常戦略での優位性を維持することが難しくなっています。
さらに、アメリカは依然として大規模な国際紛争を抑止し、制御する圧倒的な軍事力を備えてはいますが、かつてアフガニスタンやイラクで行ったようなグローバルな軍事介入に対し、国内の支持を得ることが難しくなっている状況です。また軍事介入すべきか否か即座に判断できないグレーゾーンの事態に対する有効な抑制モデルを構築できていません。
中国が南シナ海などで海洋進出を繰り返したり、あるいはさまざまな地域で権益の拡大を試みたりしている背景には、アメリカ衰退論に見られるように、アメリカのプレゼンスの低下があります。これがパワーバランスの変化です。
国家資本主義
次に、国家資本主義への転換です。世界の工場と呼ばれた中国は、輸出主導型経済で目覚ましい発展を遂げ、今世紀初頭に盛んに議論されていたのは国有企業や金融システムの自由化です。かつて1990年代半ばにポール・クルーグマンが「幻のアジア経済」で論じたのは、自由化なきアジア経済に生産効率の改善は望めないという議論でした。しかし、今や中国の国有セクターは「フォーブス500」の時価総額ランキングの常連です。
理由はいくつかありますが、1つは、中国経済の構造の変化です。中国経済は、製造業やエネルギー産業、金融産業などを中核として成長を遂げましたが、過去8年の間に、バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイに代表されるICT企業が、もう1つの核として中国経済を主導するようになるほど目覚ましい発展を遂げました。
製造業などのさらなる発展には、経済の自由化が不可欠でしたが、デジタルエコノミーの台頭で状況は変わりました。共産主義体制の中国では、ビッグデータに代表されるデジタル資源が国家ガバナンスの基軸となってしまったからです。
加えて、習近平体制の強権的体質が明らかになるにつれ、自由化へ向けた政治改革への期待もしぼんでしまいました。自由化に向けた中国の改革への期待がしぼんでしまった結果、アメリカでは共和党だけではなく民主党も含め、超党派的に中国への関与政策は役割を終え、戦略的な競争を推進しなければならないという合意が生まれたのだと思います。
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