漁民を海洋問題に投じる中国にどう対応するか

海警法始動で国際社会はハイテク・ゲリラ戦に

海警法は海の管理をめぐる中国国内の新たな分業体制を示す(写真:Paul Yeung/Bloomberg)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

漁民の集団化を支援

「海警の力は有限だが、人民の力は無限だ(警力有限、民力無窮)」。

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中国南東端の島、海南島。南シナ海を見据えるこの場所で「海南省南シナ海海洋産業発展協会」が立ち上がったのは、約3年前の2018年6月。習近平の海洋強国建設の精神を貫徹するため、中央政府の同意のもと、海南省の党委員会と省政府が有志や起業家に働きかけ、漁民の集団化を支援し海洋経済の発展を目指し始めた。

初代会長となったのは、省の政治協商委員、陳江。協会の設立式で、彼は冒頭の言葉を述べながら、こう発言した。

「協会は政府が制定した産業長期計画に合わせてやっていく。南シナ海の権益擁護を積極的に展開していく。……そうして南シナ海を平和の海に作り変えていくのだ」

習近平は2015年に「軍民融合」を国家戦略に格上げした。翌2016年、中国共産党は「経済建設と国防建設の融合発展に関する意見」を準備。だが発表直前の同年7月12日、常設仲裁廷が南シナ海「九段線」問題で中国に屈辱的な判断を下した。その9日後に公表された「意見」は、次のような指示を盛り込んでいた。

「海洋の開発と海上権益擁護を統合的に計画(統籌)し、海洋強国戦略の実施を進めよ。……行動能力と基礎設備の建設を強化し、党・政府・軍・海警・民が力を合わせ、境界を強化し辺境を守る新局面の形成に励むべし」

同年から中国では抜本的な漁業改革が実施されたが、その強度は「持続可能な漁業」の必要性を大幅に上回る。中大型漁船は中央の管理下に置かれ、漁港は漁船管理基地としてスマート化された。漁船を管理する船舶監視システム(VMS)が劇的に進化し、当局と漁船の双方向かつ密接な連絡が可能になり、当局は指示に従った漁船に報奨金を出しやすくなった。「北斗」を中心とする衛星観測通信網の海上応用が急速に進み、陸と海をつなぐ統合的データプラットフォームが構築された。さらに習近平は国内で党員と人民への政治教育を強化した。

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