漁民を海洋問題に投じる中国にどう対応するか 海警法始動で国際社会はハイテク・ゲリラ戦に

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ただし今回、全人代が公表した「第14次五カ年計画および2035年遠景目標の策定に向けた要綱」は、57章でこううたっている。

「軍事建設配置と地域経済発展の配置を有機的に結合し、国家安全保障の発展戦略のニーズによりしっかりと応えていく。軍民科学技術の協調的イノベーションを進化させ、海洋、宇宙、サイバー空間……などの領域で軍民を一体的に指揮し発展させる(軍民統籌発展)……。国防動員体制を完全に整え、……境界と防衛の強化メカニズムを改善し、……軍民の結束を固める」

つまり、「軍民融合」は党の指揮を強調した「軍民統籌」へと明示的に進化しており、党が軍事と経済、軍と民を統合的に指揮する国防動員体制の構築が目指されている。もちろん、海洋計画の現場監督は海警だ。

中国は民間人をハイテク・ゲリラとして動員

中国は2020年11月の遠洋漁業コンプライアンス白書で、世界各地で操業する自国漁船を完全に統制できていると宣言した。海警法を踏まえれば、同年、日本海の大和堆にのべ4400隻の違法中国漁船が到来し、翌2021年3月にフィリピンが実効統治する南シナ海のサンゴ礁に220隻の中国漁船団が結集したのは海警の漁業監督の成果だ。海警は急激に発展する衛星通信技術を駆使しながら、自国が欲する海上権益の「擁護」のため、民間人をハイテク・ゲリラとして動員し始めている。

新たな「国土空間長期計画」において、中国共産党と海警は「民間経済」を指揮し、ハイテク・ゲリラ戦で「管轄海域」の実効統治化を狙う。アメリカの介入を避けながら、アメリカ軍を排除できる広大な空間を創出したいのだ。民間人を動員し「国内統治」を装う中国の拡張圧力が、今後は香港だけでなく東南アジア、台湾、日本に押し寄せるだろう。日本は中国の海洋科学技術力を早急に解読し、国際社会とともに中国の新たなアプローチへの対処策を準備していく必要がある。

(益尾知佐子/九州大学比較社会文化研究院 准教授)

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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