つまり、船橋理事長のご指摘どおり、トランプ政権が過去4年間で推進した関税や中国企業への規制などの対中政策は、トランプの個性や党派性を帯びたものではなく、バイデン政権にも引き継がれていく性質のものであることは明らかです。米中の経済摩擦は、関税だけでなく、対内投資規制や輸出管理、新興技術管理、政府調達規制といった幅広い分野に及んでおり、今や経済的な戦時体制に入ったと言っても過言ではない状況にあります。
こうした中で、それまで経済の自由化を競ってきた国際秩序は戻るべき場所を失い、国家資本主義に向かっているというのが現在の流れではないかと思います。
後に、パワーバランスの変化と国家資本主義への傾倒という状況の中で、グローバルなガバナンスのメカニズムとしての民主主義が、極めて厳しい状況におかれています。フリーダム・ハウス(アメリカ・ワシントンに本部のある国際NGO団体。自由と民主主義の状況を監視する)によれば、2006年から15年間継続して民主主義が後退する現象が続いており、世界は民主化への潮流を取り戻すことができない状況にあります。さらに、そうした状況にコロナ禍が加わり、過去1年間に約80カ国で民主主義が弱体化したと報告されています。
ニュージーランドや台湾などが、民主主義の中でコロナ禍を乗り越えようとしているといった明るい例がないわけではありませんが、過去15年間にわたり継続して民主主義が後退し、それを押し戻そうという力が生み出せていないことは深刻に受け止めなければならないと思います。
米中機軸から日米機軸へ
細谷:船橋理事長からご指摘のあった日米、米中関係の地殻変動と、神保さんによるその背景分析に、異論はありません。私は、その変動を歴史的に位置づけてみたいと思います。
冒頭での理事長のご指摘どおり、2013年2月の日米首脳会談はわずか2時間弱の短い会談で、オバマ政権は日本に対して冷ややかでした。それは、この時期のアメリカが米中関係を中核に置いた国際秩序を想定していたからだと思います。同じ年の6月に2日間にわたりアメリカ・サニーランドで開催された米中首脳会談では、オバマと習近平がそろって歩く姿が世界に配信され、多くの人々は、世界の秩序が米中両国=G2の協力によって作られていくことになることを実感しました。
さらに、11月にはライス大統領補佐官がジョージタウン大学での演説で、米中間での「新型大国関係」の構築に触れ、アメリカがアジアの国々のなかで最も関係を重視しているのは、同盟国の日本ではなく、中国であることを印象付けました。
これは、日米同盟の重要性を注視し続けてきた多くの人にとって驚きでした。オバマ政権は同盟関係より経済を重視しているという印象が広まり、自由と民主主義という価値を共有する同盟国の日本より、価値を異にしていても、世界第2位の経済力を誇る中国との提携を重視しているのだというメッセージに聞こえたからです。
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