分断する世界で日本に求められる役割とは何か

大きく変動した日米中めぐる国際秩序の本質

こうした米中の地経学的な対立が長期化すると、日本のように両国への経済依存度が高い国々は、大きなリスクを負わされることになります。例えば、日本企業が中国への半導体の再輸出をアメリカから禁止され、中国企業との契約を守れなかった場合に、中国企業から損害賠償を請求されるといった事態が想定されます。今後さらに大きくなっていく可能性が高いこのようなリスクにどう対処するかが、今後の日米、日中関係の課題となっています。

日米は同盟国ですが、アメリカの商務省がエンティティー・リストと呼ばれるブラックリストに入れた中国の企業とは取引するな、と打ち出して、あわててそれに対応するというようなことではなく、日米両政府がこのような地経学的リスクとそれに対する対応策を両国の安全保障政策の中へ明確に位置づけ、それを遂行するための政策協調を行う必要があります。

自由主義経済の後退

神保 謙(以下、神保):私は地経学(ジオエコノミクス)の観点から、米中関係を中心とした構造変化を考えてみたいと思います。

アメリカ外交評議会のロバート・ブラックウィルは、地経学を「経済的手段を用いた地政学的目標の追求」と定義しています。近年、地経学が重要視されるようになった背景には、安全保障と経済の領域が接近し、ジオエコノミクスという概念抜きでは、地政学を検討することができなくなったことがあります。

今世紀初頭には、アメリカを中心とした多くの国々がグローバリゼーションを推進し、経済の自由化をイノベーションの源泉とみなしました。トーマス・フリードマンの『フラット化する世界』に代表される世界観です。中国もまたグローバリゼーションの最大の受益国だったと言ってよいと思います。

ところが、「象のカーブ」が示すように、過去20年間に新興国の富と超高所得者の富は急速に拡大したものの、先進国の中産階級や労働者の中位所得は停滞しました。グローバリゼーションの恩恵が偏在していることを、先進国の中産階級自身が深く自覚するようになりました。アメリカのトランプ現象や、イギリスのブレグジットを推進したのは、こうした層の鬱積した不満であり、「中産階級のための外交」を掲げるバイデン政権も、彼らを強く意識せざるをえません。

トランプ政権がいみじくも「経済安全保障は国家安全保障である」と位置づけたように、経済と安全保障は接近し、経済政策は国内の利益配分と密接に関連し、また経済連携や貿易投資関係を通じて地政学的目的と接続されるようになりました。

1年あまりに及ぶウィズ・コロナの経験の中で、世界秩序がどのように変化したのかとの議論が盛んですが、アメリカ外交問題評議会会長のリチャード・ハースが指摘しているように、今回の世界的なパンデミックは世界秩序を転換させたのではなく、すでに起こりつつあった変化の速度を加速させたことは明白です。

国内外を問わず、人々の移動の自由は制限され続けていますが、モノ、金、デジタルのサプライチェーンの連結性は依然として維持されています。その中で、新型コロナウイルスの発生源だとされている中国が、いち早くコロナ禍から抜け出して経済成長していることが、世界秩序の変化をさらに加速させているのだと思います。

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