町工場の悲鳴が耳に刺さる 元旋盤工・作家・小関智弘氏①

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こせき・ともひろ 元旋盤工・作家。1933年東京生まれ。高校卒業後、約50年間、旋盤工として働く。その傍ら、自らの労働体験に根差したノンフィクションや小説を執筆。主な著書に『粋な旋盤工』『春は鉄までが匂った』『職人学』など。芥川賞、直木賞の候補にそれぞれ2度挙げられる。

町工場で50年間、旋盤工として働いてきました。その傍ら、町工場を題材とした小説やノンフィクションを書いてきました。このため、たくさんの工場とご縁があり、今、そういう町工場の方々から、数多くの悲鳴が聞こえてきます。

先日も、群馬県のある町工場の方が手紙をくれました。「受注量が激減し、これ以上続けると自分の後始末ができなくなると思い、廃業を決めました。……取引先の親企業は、技術を評価せず、ひたすら値下げを求め、必要以上にISOの数値や管理体制を要求してきました。……そんな親企業にいつか一矢報いたいとずっと思ってきました。今回、ウチが閉じることで、親企業が右往左往するさまを見て、こっそりとでも溜飲を下げたかったのです」。

きちんと評価しないと技術力は衰弱する

たくさんの町工場がこういう形で廃業に追い込まれています。私が働いてきた東京・大田区で言うと、9000ぐらいあった町工場が、今は4000前後と半分以下です。仕事が減り、値下げ要請が厳しさを増し、これ以上赤字を続けられず、廃業せざるをえないというのが現状です。

これは日本のものづくりにとって危機的なことだと思います。日本のものづくりの特徴は、町工場の強さにあります。中国にはない特徴です。日本は小さい企業の人たちが産業を下支えしてきました。それを崩したら産業は廃ります。事実、日本のものづくりは相当衰弱しています。

特に危機を感じるのは、若い人たちが少ないということです。町工場は高齢化が進んでいます。若い人を引きつける元気な工場もありますが、そういうところでも、若い人を育てるゆとりがありません。技術と技能の確保や伝承が非常に弱くなっているのです。このような中で生き残れるのは、他社にはできない加工などの技術を持ち、しかもその技術を絶えず革新できる工場です。製品を安く作る技術も必要です。

たとえば東京・三鷹にある従業員40人ぐらいの会社は、スペースシャトルに載るような最先端の光学機械を作っています。名だたる大企業でも作れない製品を作れるのです。その技術は、実はわかってしまえば簡単なもの。発想が重要なのです。

 ところが大企業の人がその工場に「どうしてうまくできたのか」と聞きに来たから教えたところ、「それならウチだってできるな」と言って帰ったそうです。人の成果をすぐに横取りするのが今の大企業の姿勢。それではダメです。技術をきちんと評価しないようでは、日本の技術力は衰弱するしかないでしょう。

週刊東洋経済編集部
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