値段とは違う価値に生きがい 元旋盤工・作家・小関智弘氏②

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こせき・ともひろ 元旋盤工・作家。1933年東京生まれ。高校卒業後、約50年間、旋盤工として働く。その傍ら、自らの労働体験に根ざしたノンフィクションや小説を執筆。主な著書に『粋な旋盤工』『春は鉄までが匂った』『職人学』など。芥川賞、直木賞の候補にそれぞれ2度挙げられる。

ものづくりとは何なのか。中学生への講演を頼まれたとき、私は自動車を例に、次のように話しました。

自然の中に、鉄鉱石があります。それを集めて溶かし、鉄に変えます。鉄鉱石の値段は1トン約5000円。鉄になると1トン5万円ほどになります。その鉄を細かくしたり薄くしたり、形を変えて自動車にします。自動車1台には1トンぐらいの鉄が使われ、その自動車はおよそ100万円です。加工されるたびに値段が上がるのです。なぜでしょうか。それは新しい価値が生まれているからです。この価値のことを「商品価値」と言います。自然の中にある原料に、人がさまざまな手を加え、新しい価値を生み出していく、これがものづくりだと言われています。

しかし私は、ものづくりによって生み出される価値にはもう一つ大事なものがあると考えています。それは「使用価値」です。自然の中に転がっている鉄鉱石も、加工をすることで、人が使用して価値あるものに変わります。ものづくりは、こうして人の役に立つ「使用価値」を生むところに、いちばんの命があります。使用価値を生んだ結果として商品価値がついてくるのです。ものづくりは、単なるおカネ儲けの手段ではありません、人の役に立つための仕事なのです、と話しました。

「人の役に立つものを作る」ために働く

大きく言えば、人の役に立つものを作ることが、人間を特徴づけることであり、人間のいちばん大きな役割、というのが私の考えです。人はなぜ、何のために働くのか、その根源にあるのが「人の役に立つものを作る」ということだと思うのです。

これは多くの町工場を訪ねてわかったことです。町工場の人たちは、大きくなろうとしていません。工場を大きくするよりも、いい仕事、楽しい仕事をして死んでいきたいと考えています。経営者を含めほとんどの町工場の人がそう考えています。

ところが大企業になると、少しでも大きくなろう、少しでもおカネを多く儲けよう、となる。町工場の人がそうならないのはなぜか。それは、自分の生きがい・働きがいと、自分がものを作るということが、非常に密接に結びついているからだと思います。たとえば、苦労して作り上げたものは、本来なら高い値段を請求してもいいでしょう。ところが町工場の多くの人は、高い値段を請求せず、完成できたことに大きな喜びを感じます。値段と違うところに生きがい・働きがいを感じているからです。そういう価値観で生きているのが町工場の人たちなのです。

週刊東洋経済編集部
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