天理の達孝太は、3月20日の宮崎商戦で9回完投161球、3月25日の健大高崎戦も9回完投で134球、3月29日の仙台育成戦で8回164球。31日の準決勝、東海大相模戦の時点では1週間の投球数は298球であり、次の試合で500球をオーバーする可能性は少ないが、勝ち抜いて決勝に進出すれば500球を超えることが予想された。
中京大中京の畔柳亨丞は、3月25日の専大松戸戦で9回完投131球、3月27日の常総学院戦で7回110球、2月29日の東海大菅生戦は9回完投138球。31日の準決勝、明豊戦の前の時点で379球であり、この試合で121球を投げた時点でリミットをこえてしまう。
達、畔柳ともに大会屈指の好投手であり、プロ注目の好素材だった。指揮官の判断が注目されたが、天理は準決勝で達をマウンドに上げず、中京大中京は畔柳を4回途中から投げさせたものの31球を投げるにとどまり6回で降板。そして天理、中京大中京ともに準決勝で敗退した。
「投げすぎ」でMLB挑戦の際にマイナス評価に?
この事実関係だけを見れば、両校ともにチームの勝利よりも選手の健康を優先したかのように見えるが、実際はそうではなかった。天理の達は3月29日の投球で左わき腹を痛めていた。また畔柳は登板中に右肘の異常を訴えて降板したのだった。万全の体調であれば、両投手ともに500球のリミットいっぱいまで投げた可能性がある。
達は高校卒業後、NPBを経ずにMLBに挑戦すると公言している。「メジャーリーガーという目標があるので、今無理して故障してもまったく意味がない」と監督と相談して降板することにしたという。
だとすれば公式戦で164球も投げたことが、アメリカでどのような評価になるかを知るべきだった。アメリカのアマチュア野球では「ピッチ・スマート」という球数制限のルールを定めている。日本の高校2~3年生に相当する17~18歳では、1試合の球数の上限は105球であり、81球以上投げると4日以上間隔を開けないと投げてはいけないと決められている。1週間の投球数の上限は210球だ。
達はアメリカの同世代が投げていない球数を短期間に投げたのだ。MLB球団は、日本人選手を獲得する際にはアマチュア時代にさかのぼって試合記録を詳細に調べる。日本の高校野球が登板過多を強いることを熟知しているからだ。今春の投球数は、MLBに挑戦するうえではマイナス評価につながる可能性がある。
天理の中村良二監督、中京大中京の高橋源一郎の両監督にとっても、達、畔柳という大会屈指のエースの起用は、プレッシャーの連続だったはずだ。引退した“名将”はいざ知らず、現役で「投球過多が及ぼす投手の障害リスク」について無関心な高校野球指導者はほとんどいない。投球過多が将来のパフォーマンス低下につながりかねないことも、理解しているはずだ。
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