レッシグ教授が考える「AIと中国」本当の脅威 「サイバー法の権威」民主主義に迫る危機を語る

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

支配と自由の競争は今、新しい局面を迎えています。かつてスターリンのソ連とアメリカの間で起きた戦いよりもずっと困難です。なぜなら、すべてを永続的に監視し、それに基づいて微妙に調整する能力をソ連は持っていませんでしたが、今日の中国は持っているからです。それにより、計画経済モデルは、アメリカの戦いに勝つ新たなチャンスを獲得しています。

私たちはこの問題で自信を持つべきですが、どのように解決されるのかはまだわかりません。

――新型コロナウイルスの危機では、中国が感染抑制や経済成長などで一段と台頭したのに対し、アメリカの民主主義社会はあまりよい政策決定を行えませんでした。世界がアメリカ的な民主主義に向ける目も厳しくなっていますが、立ち直ることはできるのでしょうか。

パラグ・カンナ氏(シンガポール国立大学公共政策大学院アジア・グローバリゼーションセンターのシニアリサーチフェロー)は著書『Technocracy in America』で、世界は統治を重視する政府と民主主義を重視する政府の2つに分かれたと論じました。

それに沿って言えば、確かに、統治に重点を置く政府のほうが国民にサービスを提供することで優れているように見えます。シンガポールや中国などの政府は懸命に働き、意志決定ができずに行き詰まっているように見えるアメリカやインドよりも国民の役に立っているようです。ですから、もちろん民主主義国は、政府の有用性について心配する必要があると思います。

民主主義国家の立て直しは可能

ただ、正直に言えば、中国では感染症の初期に人道的な介入が行われなかったなど、たくさんのひどいことがありました。アメリカと比較する国としては、同じ民主主義国家であるアイスランドのほうが適切でしょう。

アイスランドの政治家たちは即座に「これは科学の問題だ」と言いました。人々を隔離する際に快適な施設を用意し、感染者の家族には負担をかけず、検疫を受けるためのサポートを提供しました。こうした効果的なガバナンスを実現するのに中国の共産党は必要ありません。民主主義国家でも十分に行えるのです。

中国の対応を賞賛すべきだとは思いませんし、トランプ政権対中国をもってアメリカのすべてを判断すべきではありません。アメリカの中でもトランプ政権とバイデン政権では昼夜ほどの差があります。トランプ氏はいかに自分に注目してもらうかということに24時間365日集中していましたが、バイデン氏は大統領就任以来、国民に頭を下げてワクチン接種のインフラを迅速に構築し、大規模なコロナ対応の経済対策もまとめました。

大統領が議会に制約されない巨大な権限を持つことは、大統領が誰かによってよいことにも悪いことにもなることを認識すべきです。バイデン政権は民主主義の弱さでなく、政府の能力と成功を示すものだと思います。

――最後にバイデン政権についてですが、彼らは、個人データ利用の規制など、インターネットの広告のビジネスモデルを改善するためによい政策を実施しそうですか。

彼らは、プラットフォーマーに対する独占禁止法の適用においては、よい仕事をすると確信しています。しかし、それだけで広告のビジネスモデルの問題を解決できるかはまだわかりません。政権内の誰もまだこの問題に対処するための一貫した方針を明確にしていないと思います。私たちは、ちょうどこの問題を認識したところであり、解決に向けて楽観視はできません。しかし、バイデン政権は重要な第一歩を踏み出すでしょう。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事