朝の社食に出没「妖精さん」はなぜ生まれたのか 「老後レス社会」に潜む日本型雇用のひずみ

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「妖精さん」と呼ばれる会社員がいる一方、「ロスジェネ」は将来に不安を抱いている(写真:Fast&Slow/PIXTA)
妖精とは、ご存じのように西洋の神話や伝説、童話に登場する精霊のことです。ディズニーのキャラクター、ティンカー・ベルがわかりやすいかもしれません。羽をつけて宙を舞い、人前に現われては消える姿は可憐そのもの。ところが、そんな「妖精さん」が日本の会社に出現するというのです。
朝日新聞特別取材班は、『老後レス社会 死ぬまで働かないと生活できない時代』で、この「妖精さん」を追跡しました。その結果、雇用や定年、働き方など、日本社会と企業が抱えるさまざまな問題が、取材を通じてあぶり出されたのです。「妖精さん」の存在が私たちに語りかけてくることとは──。
(本記事で言う「高齢者」は65歳以上を指します。また登場する人物の年齢は取材時点のものです)

「妖精さん」は朝の社員食堂にいた

日本を代表する某大手メーカー。その関東地方にある拠点に「妖精さん」は“生息”していました。早朝の社員食堂に現われ、午前9時には姿を消してしまうといいます。生息の実態はどうなっているのか。そもそも、なぜ「妖精さん」なのか。“目撃者”の証言からたどってみましょう。

・フレックスタイムをフル活用して、朝7時前には出社する
・タイムカードを切って社員食堂に移動
・コンビニで買った朝ごはんを食べたり、スポーツ新聞を読んだりして、1~2時間ほどゆったり過ごす
・他の社員が出社する9時が近づくと、静かに自席に戻っていく

つまり、朝の数時間しか姿を見ることができないことから「妖精さん」と名づけられたのです。そう、「妖精さん」の正体は、このメーカーに勤める「50代後半の働かないおじさん」でした。

では自席へ戻った「妖精さん」は日中、何をしているのでしょうか。

・職位は管理職の一歩手前で、「エア残業」している
・パソコン操作は、人さし指だけの「一本指打法」
・上司も積極的に仕事を振らないため、パソコンの前で「フリーズ」

こんな調子です。かつて、こうした「働かないおじさん」たちは、「給料泥棒」とか「ごくつぶし」「無駄飯食い」と呼ばれていました。「妖精さん」は、かわいらしいネーミングとは裏腹に、やはり社内で疎まれる存在のようです。そして、その存在が“副作用”をもたらします。「妖精さん」に嫌気がさして退職する若手社員が続出するようになったのです。

このメーカーに10年近く勤め、IT企業に転職した人は、次のように話します。

「会社は彼らを解雇できないし、ほかに移すポジションもありません。『妖精さん』たちは仕事へのやる気もなく、ただ定年を待つだけ。若手はそれを見てフラストレーションがたまるのです」

「5年もすれば、みんないなくなると思っていたら、数年前に会社が60歳から65歳へと定年の延長を決めました。ああいうおじさんたちと、これ以上一緒に過ごせないと思ったんです」

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