朝の社食に出没「妖精さん」はなぜ生まれたのか 「老後レス社会」に潜む日本型雇用のひずみ

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そう、「妖精さん」を守るために正社員から弾き出されたのが「ロスジェネ」たちであり、「ロスジェネ」は「妖精さん」と対極に位置する存在と言えるでしょう。

非正規雇用は今、雇われて働く人の4割弱を占め、その多くが独身女性です。彼女たち“非正規シングル”の悲痛な声を聞いてみましょう。

「子ども手当のように、『ロスジェネ手当』を出してほしい。時代が悪かった、というだけで見捨てられるのはごめんです」(43歳)

「退職金もボーナスもない。将来生きていくのであれば生活保護しかない。安楽死施設を開設してほしい」(35歳)

「老後、年金だけでは施設に入ることも不可能。自分は孤独死するだろう」(44歳)

「パートナー不在の老後を想像すると、自分の健康や仕事に何かあった際、ひとりで解決していけるか不安」(35歳)

老後レス社会の主役

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「ロスジェネ」たちも、あと20年ほどで高齢者の仲間入りをします。まさにこのとき、日本では65歳以上の人口がピークを迎えます。2042年、高齢者の数は3935万人にまで膨れ上がると予測されているのです(国立社会保障・人口問題研究所の推計による)。

つまり「ロスジェネ」は、「老後レス社会」(「70代の高齢警備員『老後レス社会』の過酷な現実」を参照)の「主役」にほかなりません。

若い頃は安い給料で働かされ、今は会社に居場所がない「妖精さん」。その「妖精さん」を「高い給料をもらっているのに、働かない」と批判する「ロスジェネ」たち。人材開発が専門の立教大学教授・中原淳さんは、こう話します。

「(『妖精さん』は)働いていないわけではありません。賃金に見合う生産性が上げられていないのです。端的に言うと、日本企業は若年層の雇用を犠牲にして、上の世代の既得権益を守ってきました。若い世代はこうした日本の歩みをよく見ています。『上の世代はいいよな』という不満が鬱積しています」

「老後レス」を前に不安は募るばかりです。年功序列型の待遇を前提にすれば、不公平感はどうしても高まらざるをえないでしょう。

朝日新聞特別取材班
あさひしんぶんとくべつしゅざいはん

格差と超高齢化によって、人生後半の生き方、そして働き方が大きく変わろうとしている。その現在地を報じようと、各部の一線記者が集まった。未曽有の少子高齢化・人口減少問題に取り組む長期企画「エイジングニッポン」の一環として、2019年に「老後レス時代」シリーズの取材を開始。就職氷河期世代を「ロストジェネレーション」と名付けた同紙の企画とも連動している。執筆陣は総勢9人。

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