朝の社食に出没「妖精さん」はなぜ生まれたのか 「老後レス社会」に潜む日本型雇用のひずみ

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なぜ、働く人を家族や仲間と見ない、冷たい雇用システムがこれほどまでに広がったのでしょうか。それは再就職支援を掲げる人材サービス会社が、ウラで動いていたからです。人材サービス会社は、「余剰人員」向けに社外の働き口を探すだけでなく、中高年に社外での活躍を呼びかける研修も請け負いました。

2019年に上場企業が募った希望退職者の合計は、6年ぶりに1万人を超えました(東京商工リサーチによる)。将来を見据えて好業績のうちに人減らしをする「黒字リストラ」も目立っています。

「窓際族」の出現から40年あまり。今や「妖精さん」とも呼ばれるようになった「働かないおじさん」たちは、かつてないほど厳しい状況に置かれているのです。

「ロスジェネ」たちの悲痛な叫び

それでも、自ら退職しない限りは、「妖精さん」には安定した収入が保障されています。会社内で居場所を失っているとはいえ、雇用は守られています。一方、若い世代はどうでしょうか。

バブル崩壊後の1990年代後半から2000年代前半、業績が低迷した企業は、新卒者の採用を極端に絞り込みました。この戦後最悪の「就職氷河期」と、学校を卒業して社会に出るタイミングが重なったのが、1970年前半から80年代前半にかけて生まれた人たちです。彼らは「氷河期世代」もしくは「ロストジェネレーション」(ロスジェネ)と呼ばれます。

「ロスジェネ」は2000万人規模とも言われ、現在30代後半から40代。希望の職に就けず、不安定雇用にとどまり、低賃金にあえぎ、親と同居し、家族を持てず、将来展望に不安を抱いている人が少なくありません。

企業が新卒採用を絞り込むと同時に、政府は規制緩和として派遣労働を多くの業種で解禁しました。したがって、この時期に就職活動をした「ロスジェネ」たちは非正規雇用に多く就き、雇用も収入も社会的地位も不安定なまま過ごすことになります。

このように「ロスジェネ」が苦しむ最大の原因は、前述した「日本型雇用」(新卒一括採用、年功型賃金、終身雇用)にあります。右肩上がりの時代には一定の効用があった「日本型雇用」というシステムですが、バブル崩壊後の長期不況で矛盾を露わにしました。年長世代の雇用を守ろうとする企業は新規採用を絞り込み、その後に景気回復しても、新卒の採用が優先され、「ロスジェネ」は見捨てられたままです。

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