大手ゼネコン鹿島「69歳社長」就任の意外な背景 後任社長の「本命候補」は創業家出身者だった

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ただ、石川氏は営業畑をずっと歩んできた。「昭一氏は『建築の人間に経営トップを任す』と言っていたこともあり、石川氏の社長就任には首を縦に振らなかったのだろう」(同)。「昭一氏は本家(鹿島家)と分家(渥美家、石川家、平泉家)の関係にこだわっていたのではないか」(別の業界関係者)との見方もある。

結局、押味氏は昭一氏の承諾を得られず、「建設が重要との意味でも、私の中では後任候補は(建築畑の天野氏に)絞られてきた」(押味氏)という流れになったとみられる。

問われる創業家との向き合い方

さらに押味氏は「鹿島家でわれわれの考えにあてはまる方が、次の世代の旗手になる可能性も十分にある。それをわれわれが期待している部分もある」と付け加えており、「次の次の鹿島社長に石川氏」ということは十分考えられるだろう。なお、昭一氏の息子、つまり本家の光一氏は鹿島の取締役を務めていたが、2013年に突如退任し、「現在当社グループにはおりません」(鹿島広報)という。

押味氏(左)と天野氏(右)の二人三脚で鹿島の経営を引っ張っていく(撮影:尾形文繁)

大手ゼネコンの多くは江戸時代や明治時代に創業されているが、創業家との距離感はまちまちだ。竹中工務店は非創業家出身の社長が続いているが、竹中統一取締役名誉会長をはじめとする創業家の人物が経営陣に複数入っている。

大手ゼネコンの戸田建設は2021年4月に、現社長の今井雅則氏に続いて非創業家の大谷清介氏が社長に就く。現経営陣には大谷氏と近い年代の取締役に、創業家の戸田守道氏がいるものの、「守道氏は社長就任を固辞した」(戸田建設の幹部)という。

ゼネコン各社は目下、難しい局面を迎えている。職人の高齢化や若手の業界離れを背景に人手不足が慢性化。国内の建築工事は先細りが懸念され、受注競争の激化が想定される。業務効率化を図るための工事のDX(デジタルトランスフォーメーション)も待ったなしだ。

逆風が吹き付ける中、創業家へのバトンタッチを模索する鹿島。天野氏が無事「大政奉還」を遂げることができるのか。創業家との向き合い方を含め、鹿島の帰趨はゼネコン各社にとっても人ごとではないかもしれない。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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