「生きててごめん」息子を追い詰めた私の一言 5日間音信不通になった息子の思いは…

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私はピンときませんでした。「働かないで親のお金で好きに過ごせていたら、そりゃ、うらやましいでしょ」と思ったのです。しかし次の言葉ではっとしました。息子はこう言い返したかったと言います。「うらやましいと思うんだったら、お前がやってみろよ。何もしないでずっと家にいてみろよ。どんなにつらいか。やれるもんならやってみたらいいだろ!」

息子の苦しみの深さを思い知らされました。実はそれまで息子のことを「楽をしている」と見ていたのです。違うと気づいた私は、息子と同じ景色を見ようと試みました。何もしないで家にいたらどんな気持ちになるのか、想像してみました。でも、わかりませんでした。どんなに考えても息子のつらさがわからない。しかしその「わからない」を受けいれたとき、自分を覆っていたモヤモヤが晴れていきました。

私は息子をちゃんと見ていると思っていましたが、見ていたのは自分と、自分のなかの息子でした。思えば息子が専門学校へ進学する際、たくさんお金をかけましたが、息子のためではなく、自分が助かりたくてやったことでした。「うちの子、不登校だったけど、今はギターを作る学校へ通っているの」とほかのお母さんたちに言いたかったのです。

息子が「わからない」ということは、私と息子は違う人間だ、ということです。私が産んで育てた子ですが、彼はまったく別の人格を持った人間でした。さんざん悩んできましたが、「自分とは違う」を受け入れたことで、息子を自分から切り離して対等に扱い尊重すべきだということに、私はやっと気づきました。息子とは考えが違って当然。押し付けることは意味がない。「息子のことは息子自身に任せて大丈夫」と思えるようになったのです。

さらに私は「今」だけを見て生きていけるようになりました。以前は、「私がこう言っていれば、息子はひきこもりにならなかったんじゃないか」と過去にとらわれ、「私が死んだら息子はどうなるのか」と未来への不安を抱いていました。今は過去と未来すら切り離しています。かつて息子を殺して自分も死のうと思いつめたこともありました。今は、息子の人生は息子自身が歩んでいってくれたらよいと考えています。そう思えるまでに、息子は私を成熟させてくれました。

「そのままでいい」と思えると楽に

私は現在、息子との関係で気づけた「自分と切り離して相手を尊重する」を生かし、岩手県北上市で「ワラタネスクエア」という居場所作りをしています。どんな人にも「あなたはあなたのままでいい」ことを伝えています。みなさん、自分もほかの人も「そのままでいいんだ」と思えると、表情が明るくなっていきます。その様子を見ていると幸せです。日々を楽しく生きられるようになり、息子には心から感謝しています。息子もスタッフとして「ワラタネ」を手伝ってくれています。はたからはもうひきこもりに見えないかもしれません。しかし息子は今も自分を「ひきこもり」と言います。息子にはまだ壁があるのでしょう。私はこれからも「そのままでいいよ」と息子を見守っていきます。

◎後藤誠子さん活動「笑いのたねプロジェクト」紹介

個別相談
日時 火曜~土曜 9:00~11:00
   日曜・月曜  9:00~17:00
場所 「ZOOM」によるオンライン
   または対面(北上市内)
料金 1回3000円
その他、居場所事業「ワラタネスクエア」、youtube、ラジオ、講演などについては、下記をご参照のうえ、お問い合わせを。
電話:090-4888-1210

後藤誠子(ごとう・せいこ)
岩手県在住。次男の不登校・ひきこもりを経験したことから、当事者を地域で支え合う「笑いのたねプロジェクト」を立ち上げる。おもな活動に岩手県北上市での居場所事業「ワラタネスクエア」、講演活動、ラジオパーソナリティ、ブログ、youtube配信、個別相談などがある。

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不登校新聞

日本で唯一の不登校専門紙です。不登校新聞の特徴は、不登校・ひきこもり本人の声が充実していることです。これまで1000人以上の、不登校・ひきこもりの当事者・経験者が登場しました。

また、不登校、いじめ、ひきこもりに関するニュース、学校外の居場所情報、相談先となる親の会情報、識者・文化人のインタビューなども掲載されています。紙面はすべて「親はどう支えればいいの?」という疑問点から出発していると言えます。

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