営業で「御社の課題は?」と聞く人が残念なワケ 伝説の営業に学ぶ「顧客が求めるもの」3類型
また、引き出したらそれだけで終わり、ではありません。そこで引き出した顧客の求めるものを「仮説」として、「それではこういうのはどうですか?」と対話としての提案を続けながら、その仮説を検証していくのです。
そうした仮説の検証は、その場の雑談の中で行われる場合もあれば、後日別の場で正式な提案として行われる場合もあります。重要なのは、いずれにせよそれが「対話」のプロセスであると意識することです。
雑談を単なる無駄話で終わらせない重要なポイントはこの2点です。つまり、まずは「声にならない顧客の声」を理解すること。そして、それを探り出して仮説を立て、その仮説を「対話としての提案」で実証していくことです。
ここまでくると、この記事のタイトルの答えが見えてきたのではないでしょうか。「御社の課題は何ですか?」とダイレクトに質問するとき、営業パーソンが見落としている重大な事実。それは「声にならない顧客の声」であり、それを解消するための「対話としての提案」なのです。クーガーの話をしてくれたギブソンさんはじめ、私の中の伝説の営業パーソンは、みなその技術に習熟していました。
ギブソンさんが「クーガー」の話をしてくれたのは、私の趣味である登山の話をしているときでした。当時、私は自動車メーカーに勤めていたのですが、新車である高級セダンのプロモーション企画を議論する中で、私自身が乗っている車種を聞かれた流れからの話題です。
「都会に住んで、広告・マーケティングという慌ただしい仕事をしているからこそ、週末は自然の静謐さに浸りたくなるときがあるんです」。そのときばかりは、しばし仕事のミーティングであることを忘れ、私はそんな自分の内面を饒舌に語ってしまいました。
ギブソンさんの会社の提案は、その高級セダンで感じることのできる静謐さを、ビジネススーツを着た男性が自然の中に佇む映像で表現する、というものでした。
私との雑談が、その提案にどこまで関係していたのかは、実際にはわかりません。しかし、そうした個人的な共感を抜きにしても、そのアイデアは私たちがその車を通して伝えたかったメッセージを、とてもうまく表現してくれていました。私はその案を推しました。
「人」と「人」の信頼関係がなにより大切
この話には後日談があります。
本社の承認を得て無事採用されたCM案の撮影を行うべく、季節外れの人知れぬ海岸を訪れたときのことです。夕暮れ時の「マジックアワー」を待って、スタッフ用のテントで1人海を眺めていると、別のアメリカ人のスタッフが私を呼びにきました。夕日がすごく綺麗な場所を見つけた、というのです。
その場所に向かうと、ギブソンさんが笑顔で待っていました。私たちは3人並んで、西の空に沈み始めた太陽と、それを横切って飛びゆくカモメたちを眺めていました。私はギブソンさんに言いました。
「変な話ですけど、皆さんとは高校時代からの友達同士のような感じがします。この瞬間を、私はこの先もずっと覚えてる気がします」
すると、ギブソンさんはこう答えてくれました。
「私もそういう感じがします」
雑談を本当に力あるものにするのは、結局は人と人との信頼関係、心のつながりであることを、最後に強調させてください。
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