営業で「御社の課題は?」と聞く人が残念なワケ 伝説の営業に学ぶ「顧客が求めるもの」3類型

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私には営業の経験はあまりありませんが、広告主という立場から、営業をしていただく機会は人並み以上に恵まれてきたと思います。そんななか、過去にご一緒させていただいた営業パーソンの中には、「伝説の」と称したくなる方々が何人かいます。

結局いつもこの人から買ってしまう、職場が変わってもこちらからお願いしてしまう、といった強者たちです。ギブソンさんもその1人でした。

そうした伝説の営業パーソンは、タイプや性格こそバラバラですが、共通点があることに気づきます。みなさん雑談が上手なのです。

雑談を制するものは商談を制する、などとはたしかによく言われますが、実際の商談で雑談をする機会はそう多くはありません。営業パーソンからすると、やはり躊躇されるのではないでしょうか。忙しい相手を前に、限られた時間を使って、要件ではなく雑談を切り出すというのはなかなか勇気がいることでしょう。そして、本当にただ雑談をするだけでは、実際に迷惑だと感じる顧客が多いのも事実です。

それでは、普通にやるとただ迷惑なだけの雑談を、双方に価値のある「魔法の時間」にするカギは、いったい何なのでしょうか。

これまでグローバル企業で世界中の腕利き営業パーソンと仕事をしてきた中で、その商談テクニックをマーケターの視点から分析することで、私はそのカギを見つけ出しました。ヒントは「顧客の声を聞く」という言葉をどう理解するか、です。

顧客の声を聞いていてはイノベーションは生まれない?

「もし私が何が欲しいかと聞いていたとしたら、人々は『もっと速い馬』と答えただろう」。このセリフの主は、史上初の量産型自動車を世に送り出した稀代のイノベーター、ヘンリー・フォードです。

そしてこのセリフは、もう1人の稀代のイノベーター、スティーブ・ジョブズお気に入りの引用句としても有名です。ジョブズは、盟友のデザイナー、ジョナサン・アイヴとともに、フォードをも凌ぐ数々の大変革をこの世にもたらしました。

たしかに、フォードやジョブズが起こした日常生活の大変革は、私たち顧客の期待の先を行くものでした。このように「顧客の期待の先を行く」というのが、人類の歴史を変えるイノベーションの常であるようにも思われます。

しかし、顧客の期待の先を行く発明であれば、そのすべてが私たちに受け入れられるわけではありません。セグウェイの失敗は記憶に新しいでしょう。

2001年に鳴り物入りで登場し、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスにも賞賛された驚くべき発明でしたが、発売後は低空飛行が続き、その後もピークというピークを迎えることなく、ついに昨年、生産中止に追い込まれてしまいました。

奇しくもセグウェイ発明者のディーン・ケーメンは、自身の発明を称して、「セグウェイは自動車にとって、馬と馬車にとっての自動車のような存在になる」と語っていました。先ほどのフォードのセリフを意識したものです。

セグウェイが「顧客の期待の先を行く」発明であったことは間違いありません。それはジョブズやベゾスがお墨付きを与えたとおりです。

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