戦後、両国の和解は、価値を共有する民主主義国としての同志国(like-minded)関係の発展、経済相互依存の進展、そして何よりもオーストラリアの国民が日本に対する包容力によって深まった。2014年7月、安倍晋三首相はオーストラリア議会での演説で戦前に対する「痛切な反省」とともにオーストラリアの国民が「日本に対して差し伸べた寛容の精神と友情」に「心からの感謝」の意を表したいと述べた、議員たちはその言葉に大きな拍手で応えた。
実際のところ、日本では安倍首相が議会演説で言ったようにオーストラリアは「何をするにせよ、まずは東経135度上の隣人」と相談してから地域外交をする「特別な関係」を持つ国であると認識されはじめている。経産省のトップ通商ストラテジストは、オーストラリアを「同盟と呼ぶにふさわしい。困ったとき、悩んでいるときに、腹を割って相談できる相手」と形容した。心理的にはオーストラリアはすでに日本の第2同盟国なのである。
見捨てられることへの恐怖心
オーストラリアの外交専門家であるアラン・ギンジェル(Allan Gyngell)は、オーストラリアの外交は「見捨てられることへの恐怖心」(fear of abandonment)を特徴としてきたと指摘している。オーストラリアは一貫して、イギリス帝国の一員として、そしてアメリカとの同盟を維持するため大きな犠牲を払ってきた。
一方の日本は、戦後長い間、アメリカの戦争に「巻き込まれること」への警戒心が勝ってきたが、2010年代以降の尖閣諸島に対する中国の激しい攻勢を前に、同盟国であるアメリカに「見捨てられること」の恐怖心を抱き始めている。トランプ時代、両国とも「見捨てられる」リスクを深いところで痛切に感じたことも共有している。
バイデン政権は、同盟国との関係強化を高々と掲げている。また、日米の前政権が推し進めた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を継承し、それを進めていく方針を打ち出している。
安全保障協力に関しては、日豪間の相互運用性を高めるためにも有事のシナリオを想定し、それに共同で対処する作戦計画を定めるガイドライン(防衛協力のための指針)を策定する必要がある。日米豪印の4カ国戦略対話(Quad)もこの地域を安定させるための強化が求められており、サミットへの格上げも検討する必要がある。
自由で開かれたインド太平洋構想では、それを経済・貿易面で肉付けするとともに、経済安全保障面での日豪の協力が欠かせない。ここでは経済を武器化する地経学的圧力への対応、サイバー・宇宙分野の防衛、5Gネットワーク保全、レアアースと同精製能力の確保と融通、経済・技術インテリジェンス協力などの政策協調が求められる。
(船橋 洋一/アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)
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