日本製鉄が東京製綱に振り上げた「拳」の威力 株式を買い増して「会長は退け」と詰め寄る

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

2017年以降、日本製鉄は継続的に東京製綱の経営陣と面談を行って経営改善を促してきたが、危機意識もなく改善されなかったと主張する。2017年からは株主総会で取締役の選任議案に反対票を投じてきたとも公開買付届出書に記されている。2020年9月下旬からコミットメントを高めて経営体制の再構築を実現する目的で、株式の追加取得の検討を始めた。TOBについて、日本製鉄は「事前協議は行っていない」としており、敵対的となるのは覚悟の上だった。

長年のパートナーからのTOBの通告を受け、東京製綱は「何らの連絡もなく一方的かつ突然に行われたもの」と反発を隠さなかった。1月27日にはTOBが東京製綱の企業価値向上や株主全体の利益に資するのか不明として「留保」の意見を表明。同時に日本製鉄にいくつかの質問を行った。この質問に対して日本製鉄は2月3日に回答書を提出。その内容を精査した東京製綱があらためて「反対」を表明したのだ。

東京製綱が反対する最大の理由

東京製綱が今回のTOBに反対する最大の理由は「利益相反」にある。日本製鉄は東京製綱の最大の原材料サプライヤーだが、日本製鉄はTOB成立後も持ち分法適用会社にしないため、東京製綱の業績が日本製鉄の業績には反映されない。「当社の企業価値及び株主共同の利益よりも、サプライヤーとしての公開買付者の利益を追求する恐れが将来に渡って継続する」(東京製綱の2月4日リリース)。

東京製綱はこれまで中国や韓国の線材の使用拡大を模索してきた。顧客の認証が必要になるため実績はわずかにとどまっているが、海外材という選択肢を持つことで日本製鉄から特別価格(海外材に見劣りしない価格)を引き出すことができた。近年、日本製鉄からの値上げ圧力が強まっており、海外材の顧客認証も急ピッチで進めていた。日本製鉄の出資比率が一段と高まると、こうした活動が阻害されて調達コストが上昇し、日本製鉄以外の株主の利益を損なうと懸念する。

また、東京製綱は鉄以外の新素材として炭素繊維を使ったケーブル事業(CFCC事業)を育成してきた。先行投資による赤字に耐えて、2020年11月にはアメリカ・バージニア州の大型土木プロジェクトで約40億円の受注に成功した。しかし、日本製鉄はこの事業を「失敗」と烙印を押す。東京製綱としては、日本製鉄による「脱鉄」の動きを阻害することが狙いと映ってもおかしくない。

次ページ日本製鉄の指摘は一理ある
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事