日本製鉄が東京製綱に振り上げた「拳」の威力 株式を買い増して「会長は退け」と詰め寄る

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保守本流の本尊のような日本製鉄が「モノ言う株主」に豹変した(編集部撮影)

財界総理を輩出した“ザ・日本企業”が出資先に突如として拳を振り上げ、大きな注目を集めている。

日本製鉄は1月21日、ワイヤロープ国内最大手の東京製綱に対するTOB(株式公開買い付け)を発表した。TOB価格は前日終値に36.5%のプレミアムを付けた1500円で、出資比率を直前の9.9%から19.9%まで高める。経営権を握るわけでもなく、持ち分法適用にすらしない。ここだけ見るとよくある資本提携強化の取り組みと思われた。

だが、日本製鉄は公開買付届出書で、東京製綱の業績や財務の悪化を厳しく糾弾。その原因として「ガバナンス体制の不備」を指摘した。中でも、同社の田中重人会長の名前を挙げて、代表取締役の在任期間が約20年にも及ぶことを問題視。報道陣に対して「退任は必須」(日本製鉄)と言い切っている。まるで「モノ言う株主」になったかのようだ。

東京製綱はこのTOBに対して2月4日に「反対」意見を表明した。これにより、日本製鉄のアクションは「敵対的」なTOBとなった。

敵対的TOBは異例ではなくなった

かつての日本の企業社会では敵対的TOBへの拒否感が強く、株主の賛同を得られなかったため、事例もごくわずかだった。しかし、2019年には伊藤忠商事がデサントに仕掛けるなど、大企業でも敵対的TOBが「タブー」ではなくなった。

そうした中、官営八幡製鐵所を源流に持つ、保守本流の本尊のような日本製鉄が敵対的TOBに乗り出したことは、日本の企業社会の変化を実感させる出来事だ。

艦船用のマニラ麻ロープの国産化を図るために東京製綱が創立されたのは1887年。「日本資本主義の父」と言われる渋沢栄一が創立に協力し、初代の会長にも就いた老舗企業だ。ロープの素材が鉄に移る中、日本製鉄の前身である富士製鐵が1970年に資本参加した。

日本製鉄は長らく約7%を保有する筆頭株主(信託口を除く)であり、東京製綱にとって原料の主要な主供給元でもある。また、研究開発でもパートナーという密接な関係を築いてきた。田中会長は日本製鉄出身で、歴代のトップや取締役には日本製鉄出身者が少なくない。

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