日本製鉄が東京製綱に振り上げた「拳」の威力

株式を買い増して「会長は退け」と詰め寄る

「敵対的」というのはTOBをされる側の経営陣にとっての理屈で、企業価値や株主にとって敵対的であるとは限らない。株主としてモノを言う姿勢も、それ自体は高く評価されるべきだ。しかし、今回の日本製鉄のTOBには首をかしげたくなる点がいくつかある。

まず、東京製綱のガバナンスの問題として、CFCC事業(炭素繊維を使ったケーブル事業)を営む子会社が会社法上の公告を行っていないことを指摘している。この事実は容認されるべきことではないが、上場会社の子会社で必要な公告を行っていない会社は少なくない。それを日本製鉄は公開買付届出書で「財務状況・経営状況の隠蔽をする意図を有しているのではないかとの疑念を有さざるを得ない」とまで書く。

日本製鉄の公開買付届出書には明らかなミスリードもある。2017年3月期以降に営業利益が連続して前年を割り込み、減益傾向が続いていると繰り返し、2017年6月の株主総会から取締役の選任議案に反対票を投じてきたと記している。だが、東京製綱が質問状で2013年6月から反対していたと指摘すると、日本製鉄は「2017年以前にも総合的に勘案し、一部に反対していた」と答えている。

会長再任の「反対時期」に誤り

実は反対の時期について、日本製鉄と東京製綱の両方に誤りがある。記者が調べて東京製綱に確認したところでは、日本製鉄が田中会長の取締役選任議案に反対するようになったのは2012年6月の株主総会からだった。2012年3月期と2013年3月期はスチールコード事業の悪化で最終赤字に沈んでおり、株主として経営責任を追及してもおかしくはない。ただ、日本製鉄は最高益となった2014年3月期、営業利益率が6%を越えた2015年3月期も一貫して田中会長の再任に反対している。

日本製鉄の言行不一致はほかにもある。リリースではガバナンス不全を表す事例として、在任期間が約10年に及ぶ社外取締役がいることも挙げている。しかし、日本製鉄が在任10年になる増渕稔氏(日本銀行出身)に反対票を入れたことはない。反対しているのはなぜか2017年6月に就任した駒井正義氏(三井物産出身)に対してだ。

もともと「日本製鉄ともあろう会社が、なぜ東京製綱のような小さな会社に対してあそこまでの態度を取るのか」(金融関係者)という疑問がある。そのうえ、公開買付届出書にちぐはくな点が散見されることから、「ガバナンス不全は口実にすぎず、海外材の調達拡大や脱鉄の動きに対する見せしめではないか」(業界関係者)といった声も上がる。

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