日本製鉄が東京製綱に振り上げた「拳」の威力 株式を買い増して「会長は退け」と詰め寄る

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TOB成立後、東京製綱への原料供給で日本製鉄が有利となるようなことはないのかと日本製鉄役員に聞くと、「(東京製綱の複数調達の模索を)問題にしていない。ガバナンスが明らかにおかしいからだ」と語気を強めて答えた。

東京製綱の株価は足元で1450円前後で推移しておりTOB価格(1500円)を下回る。これはTOBでの買い付け上限が10%とわずかであり、上限を超える応募は按分比例されてしまうため。TOBの期間は3月8日までだが、目標とする19.9%への出資比率引き上げは成立の確立が高い。

東京製綱側もそうした状況を十分に理解している。そのうえで「反対」を表明したのは、ほかの株主との利益相反のおそれを無視すれば、株主代表訴訟を起こされるリスクがあるからだ。公然と反対することで「調達の自由度」を約束させたい狙いがあるともいえる。

真っ向からケンカを続けられない

もとより東京製綱はワイヤロープに使う線材の仕入の90%超を日本製鉄に依存しており、真っ向からケンカができる関係にはない。日本製鉄が振り上げた拳の威力は大きい。TOB成立後の焦点は、東京製綱の田中会長の進退だろう。同社の取締役の任期は1年であり、2021年6月の株主総会でどのような会社議案を出すかが注目される。

にじり寄る日本製鉄も課題はある。「再建を支援することができる存在は(中略)当社を除いて他にいない」とする一方、東京製綱の独立性を維持する考えも示しており、どう両立させるかを問われるからだ。TOBが成立しても19.9%しか出資しない以上、他の株主の利益相反となるような行動は取れない。かといって、東京製綱の再建支援を通して自社の利益を高められなければ、今度は日本製鉄の経営陣が株主から責任を問われるおそれがある。

株式の持ち合いによって経営にお互いが口出しをしてこなかったことが、日本企業の経営に規律が働かない一因だった。そうした中、日本製鉄がモノ言う株主として動いた意味は大きい。数年後、「ぬるま湯の時代」が終わった分水嶺の出来事として、今回の敵対的TOBを振り返ることになるかもしれない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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