「テレビ画面争奪戦」に負けた放送局のしくじり コロナ禍の配信サービス定着が放送にダメ押し

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グラフだけだと差がどれくらい縮まったかわかりにくいので、数値を計算してみた。2020年1月のアプリ視聴は地上波視聴の19.3%だった。それが12月には23.2%になった。「1:5」が「1:4」に近づいた。動画視聴はもう1つキー局ができたくらいの存在になったと言える。もちろんYouTubeからNetflixまで全部含めての話だが。

電通メディアイノベーションラボの奥律哉氏は、総務省の会議などにも有識者として参加する、メディア分析の第一人者だ。その奥氏は数年前から「一周まわってテレビ論」を展開していた。

家族皆で見ていたテレビに対して、スマホやPCでパーソナルな動画視聴が現象化した。その次に、皆でネット動画をテレビ受像機で見る段階が来るはず。映像は大きな画面で見たくなるものだ。テレビからスマホに流れた動画視聴が“一周まわって”テレビに戻る、という論だ。私は、奥氏の言う「一周まわってテレビ」が昨年実際に起こったのだと捉えている。

「キャズム」を超えた配信が放送にダメ押し

19%が23%になっただけで、大したことないと思うかもしれない。だが「キャズム理論」をご存じだろうか。新しいサービスが普及する際に、すぐ飛びつく人もいればなかなか手を出さない保守的な人もいる。

いちばん早い層を「イノベーター」、次に続く層を「アーリーアダプター」と呼ぶ。それぞれ2.5%、13.5%を占める。ここまでで終わると実際には普及しない。その壁を「キャズム」と呼び、それを超えて次の「アーリーマジョリティー」に達すると、どんどん普及が広がるという考え方だ。

強引に結びつけると、テレビにおける動画配信はキャズムを超えたのではないか。データにも徐々に現れ始めているが、それより日々の暮らしのなか、配信サービスについて話すことがこの1年で格段に増えたことが大きい。

昨年は夏に「愛の不時着」などが人々の口にのぼり、年末には「今際の国のアリス」がはっきりと話題になった。しかも、とりわけドラマや映画にこだわりのない「普通の人々」が雑談の中でそれらを出すのだ。

テレビを見ていなかった若い層の会話の中にも、普通に登場する。テレビ離れをしていた若者たちがテレビでNetflixを見るようになった。動画配信のコンテンツの話題が、少なくとも地上波で見るドラマと同じ俎上に乗る程度にはなったと思う。

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