「テレビ画面争奪戦」に負けた放送局のしくじり コロナ禍の配信サービス定着が放送にダメ押し

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私は、放送事業は配信に負けたのだと受け止めている。人々がテレビに費やす時間は配信より多くても、そして視聴率が上がっても、収益は増えない。それは、テレビのビジネスモデルがすっかり時代に合わなくなったからだ。

まず若者に見られていない。メディアとして最大の欠陥だ。高齢化社会が進んでしまったのに、世帯視聴率を長らく指標としてきた。その結果、世帯数が圧倒的に多い高齢者に番組を向けてしまう“体質”になってしまった。

やっと個人視聴率の時代になり、若いタレントを出演させているが間に合わなかった。若者たちは、そもそも「テレビでお笑いを見る」習慣がない。親世代の文化と感じているだろう。YouTubeにいくらでも「自分たちの面白い動画」があるのに、親たちが占領しているテレビを奪う必要はない。

一方、スポンサーもテレビをドライに見ている。視聴率の中身まで分析し、自分たちが欲しいターゲットがいる番組にだけCMを打つ。視聴率が高くても高齢者ばかりだとなると、多くの企業にとってCMを打つ意味はないのだ。高齢者に向けた番組はスポンサーのニーズはないのに、高齢者に向けた番組作りに最適化しすぎてなかなか離れられない。

そして何より「放送」の形態が人々の生活に合わなくなっている。時間に縛られるスタイルは、不便でしかない。だから民放公式の無料配信サービス「TVer」に、もっと早く全力を注げばよかったのだ。昨年ようやく各局が運営会社に出資して本腰を入れたが、あまりにも遅すぎた。

一度負けを認めるところから始める放送局の配信事業

同時配信ももっと前から着手すべきなのに、NHKの同時配信に異論を唱えるばかりで自分たちはやっとテストを開始した段階。すべてが後手に回り、敗戦に至ってしまったのだと私は感じている。一度負けを認め、では何をどうすればいいかを考える段階に来ている。

ただ、答えははっきりしている。「ネットに明確に舵を切る」ことだ。

配信は本来、敵ではない。配信も自分たちの武器にしていけば、そもそも戦争にならず敗戦になることもなかった。放送のほうが優れていると配信を侮っている部分があったから負けてしまった。

キー局はともかく、キー局から収益が分配される形で成り立ってきたローカル局には、放送エリアを越えたネット上でのサービスで頑張ってもらわないと、この国のコミュニケーションが行き詰まる。

東京中心ではなく、地域ごとに活性化できないと日本の未来は見えない。ローカル局はその際のステーションになるはずだ。テレビの「復興」を本気で考え実行するべきときが来ていると思う。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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