森氏後任の新会長、仰天人事案が浮上する背景 橋本聖子五輪相が浮上、安倍前首相担ぎ出しも

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しかも、森氏は「もともと、途中で会長を安倍氏にバトンタッチするつもりだった」と語ったこともある。ただ、安倍氏はいわゆる「桜疑惑」を抱え、表舞台へ復帰するとなれば、野党だけでなく、国民からの批判も免れない。安倍氏周辺も「前首相に火中の栗を拾わせるわけにはいかない」と首をかしげる。

折しも、2月14日にコロナのワクチンを承認され、17日から一部医療従事者への先行接種が始まる。新規感染者数も減り続け、東京も含めた緊急事態宣言の全面解除も視野に入りつつある。15日の日経平均株価の終値は約30年ぶりに3万円の大台に乗せた。最新の世論調査では内閣支持率低下も底を打ち、回復基調に転じている。

まさに菅首相にとっての反転攻勢のチャンスだが、新会長人事で混乱して五輪開催準備が停滞すれば、そのこと自体が政権批判につながりかねない。

森氏辞任は想定外のドタバタ劇

13日深夜には、熊本大地震と同規模の大地震が福島県沖で発生。菅首相は直ちに官邸に駆け込んで矢継ぎ早に対応を指示した。14日午前2時に記者団のインタビューに応じた菅首相の表情は、「官房長官時代のように生き生きとしていた」(側近)。「久しぶりに得意の危機管理をアピールできる」(周辺)ことへの満足感からとみられる。

しかし、森氏辞任とその後の後継人事をめぐるドタバタ劇は菅首相にとって「想定外の事態」(側近)だった。15日の予算委集中審議では、立憲民主党の野田佳彦元首相らが菅首相のガバナンス不足を厳しく追及。野田氏は「組織委の最高顧問として最初からアドバイスするのが菅首相の責務」と質したが、菅首相は「適切にルールに基づいての新会長選任を強く申し上げている」とかわした。

森氏の会長辞任により、東京五輪招致の主役だった安倍前首相、猪瀬直樹元東京都知事、竹田恒和元JOC会長のいずれもが表舞台から去った。「まさに呪われた東京五輪」(自民長老)ともみえ、今夏に、当初叫ばれた「コロナに打ち勝った証し」としての東京五輪開催への疑問も広がるばかりだ。

東京五輪開催の可否について「3月下旬までに判断」が政府内の大勢だ。もし、IOCの判断で開催中止となれば、「組織委は崩壊し、菅政権も最大のピンチ」(自民長老)となる。

「新会長就任による五輪組織委の心機一転を奇貨として、開催への機運が高まる」(組織委幹部)か、それとも「新会長人事がさらなる混乱の序章になる」(有識者)のか。16日に就任満5カ月を迎えた菅首相にとって、来週からが「政権の命運を懸ける1カ月」となりそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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