このたび『宝塚歌劇団の経営学』を上梓した森下氏が、宝塚歌劇団が直面するジレンマについて解説する。
公演での3密対策
コロナ禍に見舞われた2020年度上半期、ほぼすべての宝塚歌劇公演が休演することとなった。その間には、新トップスターのお披露目公演、2020年3月に入団した第106期生の初舞台公演、ブロードウェイミュージカルの宝塚初演といった話題作が目白押しであったのだ。徐々に公演を再開しているものの、3密対策の実施は宝塚歌劇公演の風景を大きく変えてしまった。
宝塚大劇場および東京宝塚劇場公演では、客席稼働数をフルキャパシティーの約半数で再開。ほかのエンターテインメント同様に、様子を見ながらキャパシティーを広げる方向にあるものの、フルキャパシティー解禁の道のりは遠いと言わざるをえない。
宝塚歌劇ファンは熱狂的と称され、「通常公演を熱望しているのでは?」と聞かれることが多いが、やはり相手が目に見えないウイルスである以上、熱心なファンであっても、感染対策が不十分であれば観劇を回避する方々が一定割合出ているのが実際だ。
また、作品制作上の変更も余儀なくされている。通常の公演では生演奏のオーケストラは休止したまま復活していない。宝塚歌劇最大の売りの1つである、豪華絢爛な衣装を身にまとったスターたちが舞台を埋め尽くすショーの演出も変更せざるをえない状況になっている。
演出への悪影響は、顧客に見えている舞台上だけではなく舞台裏にも及ぶ。宝塚歌劇の名物とも言える衣装の「早替わり」や迅速な舞台装置の転換は、裏方の人数に負うところが大きい。つまりは「密」が発生しているのである。
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