なぜ科学に巨額な予算が必要になったのか 新しいビッグサイエンスの時代が到来

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過去最大の巨大実験のひとつ、ジュネーブCERN(欧州原子核研究機構)にあるATLAS実験の装置(CERN/ATLAS実験グループ提供)

では現代におけるビッグサイエンスはどのようなものでしょうか。純粋に科学の側面から見ると、たとえば2012年にヒッグス粒子を発見した素粒子実験のグループは、おそらく過去最高の科学者数を誇るビッグサイエンスのひとつでしょう。宇宙の真空の概念を覆すヒッグス粒子は予言されてから発見されるまで長い年月がかかりました。なぜなら、発見には巨大なエネルギーを生み出す加速器が必要で、世界中の協力を得ながらこの加速器がジュネーブにあるCERN研究所に建設されるのに15年の歳月がかかったためです。

また、この加速器を用いた研究には大きく分けて2つのグループが貢献しました。日本の研究者の多くはそのひとつ、アトラス実験グループに参加しています。このグループは世界中から精鋭の物理学者が集まり、3000人を超えるメンバーから構成されています。3000人がヒッグス粒子の発見、というひとつの論文を提出するビッグサイエンスです。

このように長い年月、大人数で行うビッグサイエンスは、地上に作る望遠鏡で宇宙を観測する天文学や、海底を深く掘削できる船を用いた古気候や生物の研究分野、放射光施設と呼ばれる加速器を用いた施設でタンパク質の構造解析を行う分野などで広く行われています。

冷戦の崩壊が「実利科学」を推進

冷戦構造が崩壊する前の米国において、ビッグサイエンスは国の威信をかけて行うものであり、国威発揚に欠かせないものとして進められてきました。しかし冷戦が崩壊し、必ずしも見栄を張る必要がなくなった米国は、ビッグサイエンスの予算を削り、実利をとれる科学に注力をはじめます。そのひとつが、当時、急速な発展を遂げていた生物科学でした。

クリントン元大統領は生物系の研究を促進するため、物理学研究費を大幅に下げ、そしてNIH(国立衛生研究所)の予算を大幅に増加したのです。ヒトのゲノムをすべて読む、当時としては壮大なヒトゲノム計画など、大きく注目される生物の「ビッグサイエンス」が花開いたときであったことも象徴的です。

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