上に述べた数字では、日本とアメリカの間の資金移動は、アメリカ全体の資金移動のほぼ10分の1である。これはさして大きな比重ではないと考えられるかもしれない。ただし、日本が与えた影響は、この数字に尽きるものではない。つまり、通常の資本取引に含まれる日本からアメリカへの資金流出も、間接的に関与していた可能性があるのだ。
実際、日本からアメリカへの投資がTB(財務省証券)の購入という形態をとっていたとしても、それがアメリカ全体の金融を緩和させた可能性がある。なぜなら、それまでTBの購入に充てられていた資金が、証券化商品の購入に向かった可能性もあるからだ。したがって日本の影響は、表に示したものよりは大きい可能性が高い。
いずれにしても、アメリカの住宅価格バブルについて、日本にも責任がある可能性が高い。しかもそれは、低金利・円安誘導というマクロ経済政策がもたらした結果だ。日本が金融緩和、緊縮財政、為替介入を行ったことが、世界的なマクロ経済環境を歪ませたことになる。
こうした取引が、金融危機の勃発で逆回転したのだ。既述のように日本の国際収支表の「誤差脱漏」が日本とケイマンの間のキャリー取引を表しているとすると、08、09年には資金の流れが逆転し、大幅な資本流入になった。これが円高の原因となったのだ。
【関連情報へのリンク】
・サブプライムローンについてのFRBによる分析
・キャリー取引についてのBISによる分析
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。
(週刊東洋経済2010年4月10日号 写真:今井康一)
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