ペストに怯えた中世の人々が採った仰天の対策 イギリスの奴隷制度はいつまで残っていた?
厚い膜ないし層ができれば、それだけ有害物質の皮膚からの侵入を防ぐことができるという理屈である。
油脂、パウダー、香料などが体臭を抑えるために使われ、髪もよほどの場合にしか洗わず、ほとんどブラシをかけてパウダーをはたくだけだった。結果、階層や職種に関係なく、あらゆる人々の頭と体がシラミやノミだらけになっていた。
そして、各国の君主も皆、臣民以上に不潔だった。
16~17世紀イングランド国王ジェームズ1世は、生まれてこのかた手の指しか洗ったことがないと公言し、17世紀フランス国王ルイ13世にいたっては、さも自慢げに「脇の下のにおいが自分でわかるぞ」と語ったという。
狂気の沙汰は、ここで終わらなかった。
水の代わりに使われるようになった「魔法の洗浄剤」とはいったい何だったか、想像できるだろうか?
アルコール入りのスプレー? 軟膏? ――いいや、正解はなんと「麻」。
17世紀初めから18世紀末まで、人々は麻を使って体を「清めた」という。
清潔な麻には不思議な力があって、それを身につけてさえいれば、体についている泥や汗をすべて吸い取ってくれる――ちょうど、植物が土から養分を吸い取るように――と考えられていたのだ。
というわけで、「太陽王」と呼ばれたフランス国王ルイ14世は、入浴する代わりに、1日に3回シャツを着替えた。紳士の身分が、所有する麻シャツの枚数で決まったのだ。
18世紀の終わりに、薬湯の効能が見直されるようになると、ようやく水は社会的地位を取り戻し始める。
イングランドでは、冷水に飛び込めばほぼなにもかも治るという話で持ちきりになったという。
ちなみに現代においてもペストは根絶されておらず、アフリカや南米の国々などで感染者が確認されている(訳注:日本では1927年以降、感染の報告はない)。
イギリスで長く適法だった奴隷制
実はかなり最近で驚く。
2010年4月6日である。
大英帝国領のあらゆる植民地で奴隷制度が廃止されたのは、1833年。
だが、いくつかの例外が認められたうえに、本国では奴隷制を違法とする必要はないと考えられていた。
『ドゥームズデイ・ブック』(訳注:英国で発行された、土地台帳や家畜・財産などの調査記録)によると、1067年にはイギリスの全人口の10%以上が奴隷だったらしい。
驚くべきことに、ノルマン人は奴隷制に宗教的理由から反対だったようで、ノルマン朝(1066~1154)創始後50年もしないうちに奴隷制は事実上消滅している。