楽天「転職元の機密流出で社員逮捕」仰天の弁明 真っ向からぶつかるソフトバンクと楽天の主張

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「楽天モバイル」というブランドにダーティーなイメージがつけば、同社が信頼を回復するまでには大きな努力が必要となる。

ブランドへの大きなダメージを緩和するには、真摯な姿勢で今回の事件に向き合うことが重要なことは言うまでもない。ところが、楽天モバイルが出したニュースリリースは驚くべきものだった。

「事態の解明に向け、警察の捜査に全面的に協力していくとともに、厳粛に対処してまいります」と結んでいるものの「弊社では、社内調査を徹底しており、現時点までに、当該従業員が前職により得た営業情報を弊社業務に利用していたという事実は確認されておりません。また5Gに関する技術情報も含まれておりません」と、楽天モバイル側に瑕疵はなく、情報も一切活用していないばかりか、そもそも技術情報があるという事実はないと主張していたのだ。

しかし、この主張が文面どおりならば矛盾が生じる。

情報を持ち出された側は(アクセス履歴やサーバーのログなどから)技術情報が持ち出されたと主張し、警視庁もそれを確信したうえで逮捕したにもかかわらず、持ち出したエンジニアを雇用した側は技術情報がないと主張しているからだ。

楽天モバイル声明に内在する矛盾

最も大きな疑問は、合場容疑者が持ち込んだ情報について、楽天モバイルは内容を把握しているのではないか、と思わせる文章になっていることだ。

楽天モバイルは「当該従業員が前職により得た営業情報を弊社業務に利用していたという事実は確認されておりません」と主張しているが、営業情報を保有していない、あるいは把握していないという表現はしていない。

そのうえで「5Gに関する技術情報も含まれておりません」とある。このように言い切るためには、持ち出された営業情報の内容を把握できていなければならない。さらに深読みするならば、4G(LTE)に関する技術情報は含まれていた、とも受け取れる表現だ。

ソフトバンクが民事訴訟を起こせば、さまざまな事実が明らかになっていくだろうが、楽天モバイルの声明はダメージコントロールをするどころか、ダメージをさらに深くしてしまう要素が散りばめられている。

機密情報を持つエンジニアの転職には、どんな業種であっても(事の大きさの違いこそあれ)問題が存在するものだ。このため転職時のルールをあらかじめ設けている企業も少なくない。

今回は電子的な文書での持ち出しというわかりやすい形だったが、ノウハウや人脈といった「その人自身に紐づいている価値」までは持ち出し不可にはできない。昨今、注目が急速に高まっているという話題、問題では決してないものの、今回の事件は企業内の情報をどのように運用するべきか、改めての議論を巻き起こすだろう。

今後の成り行き、より詳細な経緯についても注目していきたい。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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