建設業、深刻さを増す「後継者不在」の複雑背景 コロナ禍で経営存続をあきらめる企業が続出

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3つ目の理由として、免許の問題がある。建設業者は建設業法3条に基づき、建設業の許可を受けなければならない。法人ならば役員や株主が変わっても許可を引き継げるが、事業承継時に要件を満たさなければ免許を取り消されてしまう。

建設業の許可を得るには、「経営業務管理責任者」(5年以上経営業務の管理責任者としての経験があるなど)と「専任技術者」(指定学科修了者で高卒後5年以上、もしくは大卒後3年以上の実務の経験を有するもの)の在籍が求められる。

後継者へ引き継げたとしても、経営業務管理責任者と専任技術者がいなくて許可が取得できないケースがある。「この問題に現経営者が悩まされ、経営譲渡を足踏みしてしまうこともある」(前出の業界関係者)。例えば、先代社長自身が経営業務管理責任者と専任技術者の要件を満たしていたが、後継者は経営業務管理責任者の要件しか満たしていない場合は、新たに専任技術者を雇わなくてはならない。

五輪後とコロナで激化する競争環境

ただ、建設業の許可要件は2020年10月に緩和された。経営業務管理責任者については、建設業での役員経験が2年あれば、残りの3年は建設業以外の役員経験でも認められるようになった。厳格すぎるとの指摘があった許可の要件が緩和されたことによって、後継者問題が和らぐことを期待する向きもある。

今後気になるのは、建設業の事業環境が厳しさを増していることだ。2019年までは東京五輪関連などの大型工事が相次いでいたが、2020年は一服し、新型コロナウイルスで民間工事の延期も続出した。売り上げ確保を焦るスーパーゼネコンも、工事高10億~50億円程度の小型工事にまで手を出すようになった。

受注競争が激化すれば、工事採算も低下していく。そのシワ寄せは下請けの専門業者に及ぶ。ゼネコンからの熾烈な値下げ要請に、資金ショート寸前の専門業者は少なくない。「2019年までの受注好調時に設備投資に踏み切った会社などは、いまは減価償却費の負担などによって採算ギリギリという会社が多い」と、帝国データバンクの飯島氏は話す。

コロナ支援策である保証付き融資を受けて一時的に急場をしのいでも、結局のところ借金は残る。将来の展望が立たないことを引き金に、そもそも後継者不在で悩んでいた企業が、事業継続を断念するケースは今後も増えそうだ。

建設業界の後継者問題の根本には、職人気質を残したままで、マネジメント意識の希薄な非効率経営がいまだ払拭されていない業界の特質がある。業界の新陳代謝を図るためには、生産性の高い会社に人材を集約していく業界再編のほか、省人化や遠隔操作を可能にするIT・ロボット技術の進化といった大胆な取り組みが求められる。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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