元ガンプラ少年が「動くガンダム」実現した半生 ロボ研究→建機メーカー勤務の技術屋が尽力

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そこで今回はエンターテインメントとして、補助してでも2足歩行させることを優先した。材料やデザインの工夫で体重を25トンまで減量したうえで、背中の部分をクレーンのように支柱で支え、台車に接続することで安全性を保つことにした。「(独立した状態で)歩かないのか、と思われる人もいるでしょうが、それは今後の課題ですね」。

ガンダムの美しいすねのライン。もともとは、モーターの格納部がスネから飛び出すはずだったが、ガンダムらしさを追求してデザインを変更した(撮影:今井康一、©創通、サンライズ)

さらに難しかったのが、ガンダムの造形を保ちつつ、動かすために必要な機能を搭載することだ。ガンダムは、24の関節が動くように設計されており、可動部にはモーターが搭載されている。機能を優先させると、どうしてもアニメのガンダムの形とは異なる部分が出てくる。

たとえば当初の設計では、すねの関節からモーターのカバーが飛び出てしまっていた。ただ妥協はしなかった。「ガンダムのきれいなすねのラインの外にカバーをつけてしまうと、デザインとして違和感がある」(石井氏)と、内側の骨組みを曲げてもらうことにした。

【2020年12月26日11時35分追記】初出時の表記を一部修正いたします。

「人が乗って動かせるものにこだわる」

こうして試行錯誤を繰り返した結果、実現したのが今回の動くガンダムだ。コロナ禍によって公開は5カ月延期されたが、公開時のセレモニーでは、コックピットに人が乗り込むシーンもあった(平常時は無人)。石井氏の長年の夢に現実が追いついた瞬間だ。

石井氏のミッションはまだ終わっていない。目下の仕事は、ガンダムの展示が終了する2022年の3月末まで、屋外で風雨にさらされるガンダムのメンテナンスをしていくことだ。

それでは、プロジェクトが終了した後の進路は決まっているのか。

石井氏は語る。「動くガンダムの開発で改めてわかった課題はある。まずはそれを改良していく。フリーのロボット設計者として、これからも人が乗って動かせるものの開発にこだわっていきたい」。ガンダムに熱中した少年の夢には、まだ続きがあるようだ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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