銚子丸が「人が辞めない会社」に大転換できた訳 カギは「働き方改革」、コロナ禍でも収益上げる

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小室:そうした厳しい状況下に置かれた従業員は、どんなに好きで入った会社にでも、ネガティブな感情を抱きます。家族と喧嘩が続いて寝不足になって集中力が落ちたり、仕事中、上の空になってミスをしたりすることもあるでしょう。すると、今度はそのミスを誰かに厳しく指摘されるという悪循環が起きるのです。睡眠不足とストレス過多になっている人の脳では「偏桃体」というネガティブ感情を受け取る部分が肥大化します。そうしたことの積み重ねで離職につながるのです。

石田:それこそが大きな経営リスクですね。

小室:まさにその通りです。「育休で一時的に人が減るリスク」と、「『育休を取らせない』ことで優秀な人材が離職し、採用におけるブランディングが低下して人手不足がさらに深刻化するリスク」。どちらがハイコストでしょうか。しかも、育休には会社側はまったくコストがかかりません。育休中に給料は発生しませんし、本人には国から給付金が、企業は助成金が支給されます。実質黒字です。

一方で、育休を取らせないことでブランディングが低下し、人材を採用できないとなると求人広告費に数十万円というコストがかかります。経営陣のみなさまには、このどちらのリスクが大きいのかを見誤らないでいただきたいです。

石田:もう1つは、介護離職も喫緊の課題ですね。実は数年前まで両親と暮らし、介護をしていました。ほとんどを担ってくれていた妻を見て「これは大変なものだな」と気づきました。最近は、会議で「育休に関心がなくても親の介護に関係のない人はいないよね」と話すようにしているんです。

小室:現在日本社会では、保育園に入れていない待機児童が2万5000人、特別養護老人ホームに入れず待機している高齢者は36万人です。介護問題の深刻さを数字が物語っていますよね。介護離職者は毎年10万人出ています。男性は介護の話をなかなか会社に切り出せません。会社に迷惑はかけられないと思っているのです。

介護休暇をとれば、それは出世街道から外されるという認識です。だからなかなか言い出せないし、会社に伝える時には、すでに離職する決意をかためてしまっています。育児はもちろんですが、介護でも一時期休んだり短時間勤務になったりしても、キャリアアップにマイナスにならない仕組みを社員にしっかり伝えていくことは大事ですね。

振り返ってみて、この人手不足の厳しい中でも、働き方改革に取り組まれて良かったことは何ですか? 今後はどんな挑戦をされていきますか?

働き方改革のおかげで優秀な新卒が集まるように

石田:うれしい報告なのですが、働き方改革に取り組んだおかげで、優秀な新卒が集まるようになったんです。働き方をしっかり整えたことで、「寿司屋に就職する」という意識ではなくて「立派な上場企業に就職する」という意識を持ってわが社を選んでくれる学生が増えた。

働き方に真摯に向き合うことは、何より学生に安心感を持ってもらえますね。外食産業は、低賃金・過重労働と言われて久しい産業です。銚子丸がこの業界の「働き方改革のロールモデル」になりたいと私は考えています。

飲食店で働いている人たちには「接客が好きです」、「お客様の笑顔が何よりうれしいです」と本気で言ってくれる心根のやさしい人が不思議なほど多いです。そんな彼・彼女たちに、仕事を通して成長を促したい。生活を豊かにし、家庭も円満で、ありったけの夢を叶えてほしい。そんな「舞台」を、銚子丸が提供していきたいですね。

(撮影:風間 仁一郎)
小室 淑恵 ワーク・ライフバランス代表取締役社長

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こむろ よしえ / Yoshie Komuro

1000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方改革コンサルティング」の手法に定評がある。安倍内閣産業競争力会議民間議員、経済産業省産業構造審議会、文部科学省中央教育審議会などの委員を歴任。「朝メール.com」「WLB組織診断」等のWEBサービスを開発し、1000社以上に導入。「WLBコンサルタント養成講座」を主宰し、1100名の卒業生が全国で活躍中。 私生活では二児の母。『プレイングマネージャー「残業ゼロ」の仕事術』『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』等著書多数。最新刊は『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』(PHP新書、2020年9月17日発売)。

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