銚子丸が「人が辞めない会社」に大転換できた訳 カギは「働き方改革」、コロナ禍でも収益上げる

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小室:店舗の労働環境改善に投資し始めたんですね。

石田:並行して取り組んだのは、経営陣の意識改革です。創業者の堀地速男は「お客様の感謝と喜びをいただく」という理念を掲げ、商品、人、空間の良さを最大限まで引き出すよう尽力しました。堀地が「店は劇場、従業員は劇団員、顧客は観衆」と称したのは、「主従」で成り立つ組織ではなく、お客様を喜ばすための「配役」であるべきとの思いがあったからです。

そうした血の通った人間集団、もっと言えば劇団員のつくる大家族的でアットホームな雰囲気がお客様に支持されたとも言えます。そうした良い面は今後も守っていきたい。その一方で誰よりも早く出社し遅くまで働く人を「働き者」として評価する企業風土や「みんなでお店を開けて、みんなで閉めて、みんなで帰る」といった習慣を改めなければなりません。

小室淑恵(こむろ よしえ)/株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長。1000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方見直しコンサルティング」の手法に定評がある。私生活では2児の母(撮影:風間 仁一郎)

小室:たしかに先代の時代は働く人の勤勉さや一緒に働く人の一体感などに支えられて伸びてきた企業は多くありましたね。

石田:そうです。「お客様に喜んでいただく」という先代の想いは最も大切にしつつ、しかしながら長時間労働を改革しないことには、「定着率の向上」につながりません。無論、優秀な人材も集まらないでしょう。それでは結局「お客様に喜んでいただく」が実現できないのです。

そこで店舗ごとのピーク時間を考慮し「営業開始を遅らせる」「終了時間を早める」などの対策を練り、加えて「シフト制」を徹底することにしました。この労働時間短縮に取り組むようになって気づいたことは、経営者だけでなく、従業員に対しても、半ば強制的に意識改革を行う必要があったことです。責任感が強い人間ほど、「あとは私が責任持ってやっときますから」などと1人で抱え込みがちですが、そうならないよう、毎日本部で全劇団員の勤怠をチェックし、働きすぎの劇団員には「シフトどおりに帰りましょう」など改善を促しました。

今は耐えて前を向くとき

小室:でもそうすると、皆さんの給与はその分少なくなってしまったのでは。

石田:いえ、それはしませんでした。外食産業にありがちな話ですが、銚子丸も給与の一部に「固定時間外手当」と称する手当を組み込んでいました。これが当初は70時間分だったのです。この手当額を減らさずに固定時間外手当の基となる時間数を45時間に減らすことにしたのです。

小室:多くの飲食業がこの仕組みですよね。そうすると、70時間残業があった人が45時間になっても、給与は一切減らなかったわけですね。時間単価は跳ね上がったことになりますね。

石田:そうなんです。さらに銚子丸はこの固定時間外手当を70時間分から45時間分とする一方で、基本給を引き上げることで70時間分の時を上回る給与額とし、残業が45時間を超えた場合は残業代を固定時間外手当とは別に追加で支払うしくみに変更しました。

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