しかるべきときにきちんとしかることが、人材育成には不可欠です。江戸時代の思想家、二宮尊徳は「かわいい子は、五つ教えて三つ褒め、二つしかってよき人とせよ」と言っています。人が伸びていくには、褒めることとしかることの両方の養分が必要なのです。きちんとしかれない人に、しっかり褒めることはできません。しからない教師や上司は、責任の半分を放棄しているのと同じです。ただし、しかるときには、いくつかの注意点があります。
大原則はみんなの前でしからないこと。ビジネスパーソンも同じで、しかるときは一人呼び出してしかるべきです。今の事実をしかるということも大事です。ガラスを割った子がいれば、その事実だけをしかるのです。この前どうしたとか、その子自体をしかってはダメなのです。
教える側は「叱り上手」になるべき
しかることと怒ることの混同もいけません。しかるのは理性に基づく行為ですが、怒るのは感情に任せた行為です。大きい声でしかっていると、感情が高ぶっていつの間にか怒ってしまいます。だから、しかるときは小さな声でしかりましょう。
強く短く、相手の目を見て、相手の身になってしかる姿勢も大切です。しかられた子は悲しそうな目をするので強くしかれなくなります。それでいいのです。しかる悲しみを持ちながらしかるぐらいがいいのです。
他人と比較してしからないことも重要です。「Aくんはできるのに、君はどうしてできないのか」「少しはBくんを見習いなさい」などと他人を引き合いに出さないこと。子どもはこれをいちばん嫌がります。これほど人のプライドを傷つけるしかり方はありません。
何をしたらしかるかを明確にしておくことも必要です。私は三つ決めていました。命にかかわること、人権にかかわること、三度注意しても繰り返したときです。これを子どもたちに宣言しておきました。
そうしないと、しかるときとしからないときが出てきてしまいます。すると子どもたちは先生の顔色を見るようになります。会社で上司の顔色をうかがうようなものです。そうなるとルールを学び、自分で考えるのではなく、他人の顔色を見て判断するようになってしまいます。それではいけません。
教えることの醍醐味は、教わる人が教える人を超える瞬間に立ち会えること。こちらが考えもしない深いことを自ら考え、答えてくる。そのような人材を育てるために、教える側は「教え上手」「しかり上手」にならなければならないのです。
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