金原ひとみ「ストロング系は罪深き飲み物」 『蛇にピアス』の作家が語る魅力と落とし穴

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短編小説『ストロングゼロ』を執筆した金原ひとみさん。他の作品にもお酒が登場することが多い(撮影:梅谷秀司)
「朝起きてまずストロングを飲み干す。化粧をしながら二本目のストロングを嗜む」――。
出版社で働くミナは他人に口外できない秘密を抱えていた。それは誰もがうらやむ存在だった同棲中のイケメン彼氏・行成が鬱(うつ)病で引きこもり状態になったことだ。
芥川賞作家の金原ひとみさんが文芸誌『新潮』2019年1月号で発表した短編小説『ストロングゼロ』。つらい現実から逃れるために、アルコール度数9%の缶チューハイ「ストロング」に依存していく女性が描かれている。
自身も愛飲しているという金原さんに、作品着想の経緯や、ストロング系飲料の魅力と落とし穴について聞いてみた。

退廃的で何かに依存する人々の姿を描いた

――まずは『ストロングゼロ』を執筆した経緯を教えてください。

6年間住んだフランスから2年前に帰国して以来、日本人とお酒の関係をすごく特殊に感じてきました。仕事においてもお酒が関わってくる飲み会文化があったり、お酒に酔って人前で醜態をさらすことが日常化していたりする。フランスではあまり見ない光景が、数年ぶりに見たときにすごく印象的でした。

日本はコンビニがどこにでもあって、しかも24時間営業なのでいつでもお酒が買えます。これだけ誘惑が多いと、多少自制心があっても阻まれる。自分を甘やかすことのできる環境になっています。

ストロング系は飲んでいる層が若く、ほかのアルコール飲料よりもいろいろな層に広がっていると実感しました。自分自身も飲んでいたし、外でも日常的に目につくようになった。電車の中やコンビニの駐車場で飲んでいる人もいて、とても退廃的で興味深く感じていました。そこで、何かに依存する人々というテーマで書いてみたいと思ったんです。

――作中では主人公のミナがコンビニのアイスコーヒー用の氷入りカップに「ストロング」を入れて、社内でストローを使って堂々と飲むシーンがあります。「何飲んでるのと聞かれたらレモネードか炭酸水と言えばいいのだ」と妙にリアルです。

この方法は出版社に勤める知人の男性から聞きました。その話を別の知人にしたら、「うちの会社にもいますよ」と言う人もいて。酒飲みが考えることは同じなんだなと。「いつも酒臭くてバレバレだ」と言っていたけれども。これは依存の渦中にある人でないと思いつかない発想だなと、ありがたく使わせてもらいました。

――金原さん自身もお酒がお好きだそうですね。本作以外の作品にもお酒が登場することが多いように感じます。

自宅にはビールやワインを常備しています。基本的にビールから入って、次にチューハイやストロング、最終的にワインに行き着くという飲み方。ストロングゼロも自宅にいつも置いてあります。ネット通販で毎回1箱(24缶)を買うのですが、私も旦那も飲むので割とすぐなくなります。

――ストロング系の魅力はどこにありますか。

一番は手軽さと安さでしょうか。安く簡単に酔えるということを、ここまで鮮やかに実現してしまうと社会に浸透していくのは不思議ではないし、いろいろな問題も生じてくると思います。

本当に口当たりがよくて、ゴクゴクいけちゃうので、罪深い飲み物だと思う。ニーズに合っていて、かつ、人を魅惑する商品だと思います。

東洋経済オンラインの短期連載「ストロング系チューハイの是非」では、この記事の続きを無料でお読みいただけます。この記事と合わせて5本の記事を配信しています。
【インタビュー】
精神科医・松本俊彦氏「精神医療の現場で感じるストロング系のヤバさ」
小説家・金原ひとみさん「『ストロング』は人を魅惑する罪深き飲み物」
オリオンビール社長・早瀬京鋳氏「度数9%の商品を売ることに罪悪感を抱いた」
【記事】
「ストロング系悪玉論」にメーカーはどう答える?
データで見る!「ストロング系チューハイ」いちばん飲む世代は?
兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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