アント上場延期に見た中国政府の強烈な危機感 ジャック・マーの見ていた夢とは違っていた

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同じ論壇の開幕スピーチで国家副主席の王岐山は、「近年、新しい金融技術が普及し、効率性や利便性が高まった一方で、金融リスクも拡大している」と警鐘を鳴らしていたが、企業の債務超過にあえぐ中国の金融市場、そのあおりで既存金融機関の再編が進む中、政府からすれば、これ以上デジタル金融の「創造的破壊」は見過ごすことはできないはずだ。ジャック・マーはアント株の実質50.5%保有する株主だ。マーの「政府批判」に、政府は「まだボロ儲けが足りないか!」「それならどうなるか、お見せしましょう」というのが本音ではないか。

だからと言って、中国政府はアントを潰さないだろう。すでにここまで成長したデジタル・エコシステムを潰すコストが高すぎるからだ。代わりに「手なずける」ようにすると思う。会社内の党組織をもって「規律正しい経営」を要求し、いざとなれば人事に手をつけることも可能だ。

アリペイやウィーチャットペイなど「電子決済」そのものに対しても、当局はいち早く手を打っている。海外では、中国のデジタル人民元による「ドル支配の打破」に関心が向いているが、人民元の為替と資本勘定の自由化が進まない限り、デジタル人民元だけでそれを実現することはできない。それよりも技術的に完全に「電子決済」にとって代わることができるため、デジタル人民元がアリペイのビジネスに影響を与える可能性は高い。当局が要求さえすれば、名称を変えずとも、アリペイを実質「デジタル人民元」に代え、中央銀行はアントの金の流れからビジネスの詳細を完全につかむことができるはずだ。

1つこの「事件」から見て取れたのは、ジャック・マーの見ていた夢は、中国政府の言う「中国の夢」とは違っていたということだろう。

政府の今までの「放任」―「サポート」―「監督」の基本方針は、プラットフォーマーの巨大化やデジタル社会の深化により曲がり角に来ている。「第3勢力」になりうるプラットフォーマーへの中国政府の対応が、今試されている。

「専横のリバイアサン」理論で説明できない

AI・ビッグデータを駆使する「デジタル革命」は、人類の社会形態を根本的に変える「技術革命」だ。その革命の中心の1つが中国であることは間違いない。

アセモグル&ロビンソンは「専横のリバイアサン」に深く入る中国では「継続的なイノベーションの創出は望めない」と言う。中国では「国家」の集権が強力である反面、それを牽制する「社会」の力が弱すぎるというのが理由だ。文脈にある「社会」の力が「弱い」との指摘は正しいと思う。しかし、目覚ましいほどの「デジタル経済の継続的イノベーション」が次々と起こる現状をどう説明するべきか。

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