クレジットカードや中小企業の手形市場が未発達だった中国では、モノを売りたい個人や中小企業と消費者間の「決済」が商売のネックであった。売り手はモノを送っても「資金が回収できない」、買い手は代金を支払っても「モノが届かない」、アリペイは「第三者預託」(エクスクロー)の仕組みによりそれを解決した。
その後、アリペイの「安心」「簡易」「低コスト」の決済手段がテンセントのウィーチャットペイと競合する形で急速に全国に広がり、売買規模がさらに大きくなった。その莫大な集金力を背景に、金融投資商品を扱う「余額宝」、保険を扱う「相互宝」なども急成長、アントは世界最大といわれるフィンテックグループに生まれ変わる。
2014年には、アリババがニューヨーク証券取引所に上場、218億ドル(約2兆2700億円)を調達。同時に関連ビジネスの投資や買収を世界規模で加速させ、金融・コマーシャル・実業を含む巨大なエコシステム「アリババ帝国」が形成された。そのネットワークは広くアジアや日本にも進出し、「アリババ・モデル」の拡散が進んでいる。
2016年頃からは「データ・テクノロジー(DT)企業」を目指している。「これからのビジネスは『C2B』(消費者のニーズに基づき企業が製品やサービスを開発する)に変化する」とジャック・マー自身が予想したことを、AI・ビッグデータを活用し、実践している。そのため、開発研究に多額の投資をしている。
政府の役割は「放任」―「サポート」―「監督」
先日、清華大学公共管理学院院長江小涓の講演の映像に、多数のバイヤーとメーカーがC2Bプラットフォームにより迅速にマッチングされ、機械の部品が製造される情景が映った。これは裾野が広い製造業、高度な流通網、それをAIで操作するDT会社がそろう中国でなければできないことだ。まだ初歩的な段階とはいうものの、DT会社が活躍するにつれ、生産やサービスのスピードや質が変わり、中国の産業形態そのものが大きく変貌するのは時間の問題だ。
時代の先端を走るアリババ、このような中国のデジタル企業の大躍進に世界は「羨望」と「危惧」を抱いた。後述するが、複雑な思いは中国政府も同じだ。
このような中国のデジタル経済の急成長には、政府の方針に関係がある。政府は当初から明確な方針があったわけではないが、その時々のデジタル企業に対応する中で、「放任―サポート―監督」方針をとるようになった。
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